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漢人の天国、少数民族の地獄。「多様な」街 南新疆カシュガルレポート

2018年11月9日(金)13時05分
林毅

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時折人数不足なのか、明らかな一般人が棒を持って立たされている場面に出くわすこともある Lin Yi

しかし実際に住んでいる身からすると、これらはそこまで面倒に感じるものでもないらしい。

「不便かって?別に不便とは思わないよ。まあ、悪いことをするやつらにとっては恐ろしく不便だろうけどね。それに今年の3月から漢民族はこうした街中での検査を基本的に受けなくてよくなったんだ。」政府の取り組みについて具体的な日付や金額などのデータに妙に詳しい運転手は、嬉しそうに言う。

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地下街には、10-20mごとにワンボタンで通報できる電話が設置されている(上部の電話マークがついた「一鍵報警点」) Lin Yi

この話を聞く前から、確かに警戒の緩さは感じていた。今年1月に北新疆地域を訪れた際の検問の数ははるかに多く、しかもその多くですべての車が止められ、銃を持った警察官によって後部座席及びトランクを開けた上での検査を受ける必要があった。それに比べて今回は基本的に徐行して窓を開け、人数を確認させれば通ることができた。

街中を歩いていても、どうみても少数民族に見えないだろう僕は基本的にほぼすべての検査がフリーパスだった。南新疆は北よりはるかに警戒が厳しいと聞いていて覚悟もしていたが、少し肩透かしをくらったような気さえしたくらいだ。

検問、カメラ、監視アプリ、強制集住、そして「再教育」...少数民族に対する監視・抑圧


しかし少数民族にとってこの地での生活は開放式の牢獄にいるのと大差ないといっても過言ではない。当然その大多数にとってはまったく関係ない「反テロ」を名目に、大幅にその自由が抑圧される事になる。

バスに乗っていてもチェックポイントごとに全員降車して身分証、街を歩いていても突然呼び止められて身分証、商業施設やレストランなどでも入念なボディチェックと顔認証および身分証の照合を通らないと入店する事すらできない。数日滞在すればうんざりするほど目にするそれらの検査を担当するのは、多くが同じ顔をした少数民族だ。

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少数民族の警察官と市民で構成されていると思われる自警団 Lin Yi

ほかにも抜き打ちで専用の端末で携帯内部の画像や通信記録、VPNやFacebookなどの特定の外国製アプリが入っていないかを検査され、そのデータを没収・消去されたり「有害な写真やサイトをブロックする」アプリを携帯に規定通りインストールしているかを確認されたりといった事例も報告されている。この場合、もしインストールされていない事が発覚すると10日間の拘束ともいわれる。

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「きれいな心を保とう」というスローガンの「浄網衛士」PC版。ダウンロードサイト の説明によれば「青少年の育成に悪影響を及ぼすコンテンツをブロックする」ためのものらしいが、実態はスパイウェアといわれる。

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