最新記事

サーキュラー・エコノミー

トマトの廃棄物を使った夢の微生物燃料電池

2018年10月24日(水)16時00分
クリスティーナ・プロコピオー

フロリダ州では毎年、生産量の40%に当たる40万トン近くのトマトが廃棄される ADRIAN825/ISTOCKPHOTO

<米研究チームが、トマト廃棄物が微生物燃料電池の強力なエネルギー源になり得ることを発見>

全米1位のトマト産地カリフォルニア州と2位のフロリダ州では、商業用トマトの3分の2~4分の3を生産している。当然ながらここでは、傷んだトマトや、ケチャップを作る過程で取り除く皮や種といった廃棄物も大量に出る。

そんなトマト廃棄物が微生物燃料電池の強力なエネルギー源になり得ることを発見したのが、米サウスダコタ鉱業技術大学のベンカタラマナ・ガダムシェッティ准教授率いる研究チーム。16年の米化学学会の全米総会で途中経過を発表し、世界を驚かせた。現在は、350ミリリットルの缶に廃棄トマト3.5ミリグラムとミネラルウオーターを入れて、1時間当たり72ワットの電力量を10日間保つことが可能になっている。

フロリダ州では毎年、生産量の40%に当たる40万トン近くのトマトが廃棄される。これを全てエネルギーに変えたら、ディズニーワールドの90日分の電力を賄える。しかし「埋め立てれば強力な温室効果ガスであるメタンガスが発生し、廃水が湖や海などに流れ込む恐れもある。処理方法を見つけたかった」と、ガダムシェッティは言う。

微生物燃料電池は、微生物が有機物を分解して発生する電流を利用する。トマト発電の場合、まず地元の廃水処理施設で発生する微生物を燃料電池に組み込む。その働きでトマト廃棄物を酸化させ、発生した電子を燃料電池で回収して電流にする。

トマト以外の食品廃棄物や海洋廃棄物が燃料電池に利用できるとの研究結果も多い。それでもガダムシェッティの研究チームによれば、トマトが含む一部の微量栄養素が特に発電に適している。実用化に向けた課題は発電量の大幅向上。微生物燃料電池の部品(電極、微生物、生物膜、配線)のどれが最大の抵抗になっているかを突き止め、改良していくという。

研究は現在、NASAによる費用支援の対象になっている。そこでは宇宙船で発生するさまざまな廃棄物と微生物を使って発電する生物電気化学モジュールを開発中。このモジュールと、プロジェクトで得られた知見をトマト発電に生かしていく。

ゆくゆくはこのA技術は多様な用途や場所で活用できるようになるはず。廃棄トマトの山が豊富な代替エネルギー源へ、とおいしく変身するだろう。

[2018年10月16日号掲載]

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、経済の一部セクター減産に不満 均衡

ワールド

プーチン氏、米特使と和平案巡り会談 欧州に「戦う準

ビジネス

次期FRB議長の人選、来年初めに発表=トランプ氏

ビジネス

ユーロ圏インフレは目標付近で推移、米関税で物価上昇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中