最新記事

再生可能エネルギー

ドイツで潰えたグリーン電力の夢

Power Shift

2018年10月19日(金)15時30分
ダニエラ・チェスロー

再生可能エネルギー推進派は政策の後退に強く反発している。ドイツ風力発電連合のウォルフラム・アクセレムCEOによると、風力発電業界では大量の失業者が出ている。「19、20年にこの業界は苦境に陥るだろう」

一方、ノルド・ストリーム2の建設工事は着々と進んでいる。このプロジェクトの事業費110億ドルは、ロシアの国営エネルギー企業ガスプロムと5社の欧州企業が出資しており、ドイツの納税者には直接的な負担はない。パイプラインはドイツ、ロシア、フィンランド、スウェーデン、デンマークの領海を通過するが、通過を拒否するデンマークを除く4カ国は既に敷設を許可している。

今でもEUが消費する天然ガスの約3割はロシア産だが、予定どおり来年末にノルド・ストリーム2が稼働を始めれば、欧州のガス市場におけるロシアのシェアはさらに拡大する。欧州最大のガス田があるオランダは地震頻発のため30年までにガス田を全て閉鎖する予定で、EUのロシア依存は一層進む。

ドナルド・トランプ米大統領は7月、「ドイツは完全にロシアに支配されている」と発言。米政府はノルド・ストリーム2に投資する欧州企業に制裁を科す可能性があると脅しをかけた。

褐炭の採掘はフル操業

ドイツ政府もロシアへの過度の依存を警戒しているが、エネルギーの安定供給を求める産業界の要望は無視できない。現実問題としてロシア産ガスに頼らざるを得ないと、ドイツ国際安全保障問題研究所のエネルギー専門家クリステン・ベストファルは言う。「大きな需給ギャップを埋めるには、(ロシアの)ガスが必要だ」

再生可能エネルギー用の送電網整備が立ち遅れるなか、二酸化炭素(CO2)の排出量が最も多い化石燃料である褐炭の需要も伸びている。褐炭による火力発電はドイツの電力供給の25%近くを占める。化石燃料業界が逆風にさらされるなか、褐炭の採掘会社は稼げるうちに稼ごうと事業の拡大に余念がない。

石炭火力発電が大きく伸び、ドイツのCO2排出量は15、16年と連続で増えた(17年には微減)。ドイツは今なおヨーロッパ最大のCO2排出大国だが、アンゲラ・メルケル首相は汚名返上に努めるどころか、20年までに1990年比の40%という削減目標を撤回するありさまだ。

わずか数年前、パリ協定の採択に向けた議論が行われていたときには、ドイツはEUの気候変動対策のリーダーを自任していた。だが最近、ミゲル・アリアスカニャテ欧州委員会気候行動・エネルギー担当委員が30年までの削減目標を90年比40%から45%に引き上げようと提案すると、メルケルは渋い顔をした。

「既に決めた目標があるのだから、その達成が先だ。次から次に新しい目標を打ち出すのはいかがなものか」

<本誌2018年10月23日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
アメリカや中東、アジア、ヨーロッパなど世界の動きから世界経済、キャリア、テック&サイエンス、for Womanの最新トピックまで、ウィークデーの毎朝お届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

MAGAZINE

特集:顔認証の最前線

2019-9・17号(9/10発売)

世界をさらに便利にする夢の技術か、独裁者のツールか── 新テクノロジー「顔認証」が秘めたリスクとメリットとは

人気ランキング

  • 1

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(2019年9月)

  • 2

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 3

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本との関わりは?

  • 4

    アメリカ人労働者を搾取する中国人経営者

  • 5

    外国人への憎悪の炎が、南アフリカを焼き尽くす

  • 6

    「Be Careful to Passage Trains」日本の駅で見つけ…

  • 7

    2050年人類滅亡!? 豪シンクタンクの衝撃的な未来…

  • 8

    【韓国政治データ】次期大統領としての好感度ランキ…

  • 9

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さ…

  • 10

    「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

  • 1

    タブーを超えて調査......英国での「極端な近親交配」の実態が明らかに

  • 2

    消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャッシュレス「護送船団」

  • 3

    「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」への反響を受け、もう一つカラクリを解き明かす

  • 4

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本…

  • 5

    思い出として死者のタトゥーを残しませんか

  • 6

    英国でビーガンが急増、しかし関係者からも衝撃的な…

  • 7

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(201…

  • 8

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 9

    性行為を拒絶すると立ち退きも、家主ら告発

  • 10

    香港長官「条例撤回」は事実上のクーデター

  • 1

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 2

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで話題に

  • 3

    日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう

  • 4

    嘘つき大統領に「汚れ役」首相──中国にも嫌われる韓国

  • 5

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さ…

  • 6

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 7

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる…

  • 8

    「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

  • 9

    韓国で脱北者母子が餓死、文在寅政権に厳しい批判が

  • 10

    「この国は嘘つきの天国」韓国ベストセラー本の刺激…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2019年9月
  • 2019年8月
  • 2019年7月
  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月