最新記事

テクノロジー

災害時の人命救助にゴキブリが活躍?

Cyborg Cockroaches

2018年10月11日(木)17時30分
アビー・インターランテ

狭い場所でも俊敏に動き回れるゴキブリに小型カメラを搭載すれば被災者の捜索に役立つ。ただし指令どおりに動くようになるには課題も多い Eugene Kong-Eyeem/GETTY IMAGES

<高性能のマイクロ回路を背負った「サイボーグゴキブリ」が倒壊した建物に入って不明者を捜索する>

災害時に倒壊した建物内に閉じ込められた人を捜索し、救助する活動には危険が付き物だ。大掛かりな撤去作業や安全確保なしでは手が付けられない現場も多い。

そんな厳しい条件を難なく克服できる小さなヒーローが登場するかもしれない。それは「サイボーグ化されたゴキブリ」だ。

米コネティカット大学の研究チームは超小型のニューロコントローラーを付けたゴキブリを建物内に入れ、遠隔操作で動かす技術を開発。9月上旬にフィラデルフィアで開催された認知コンピューティングと神経科学の学会で実演してみせた。

「小型ロボットの基盤として昆虫を利用する技術は、災害現場や紛争地での捜索や救助など多くの用途に役立つだろう」と、開発を率いたアブヒシェク・ドゥッタ助教(専門は電気・コンピューター工学)は声明で述べている。「私たちが開発したマイクロ回路はより高度で信頼性の高い制御システムを実現し、この技術を実用化に一歩近づけるはずだ」

ドゥッタらが実験に使用したのはマダガスカル島に生息するゴキブリ。体長5~7.5センチで、寿命は2~5年だ。このゴキブリの背中に小さなバックパックのようにマイクロ回路を装着する。開発チームが特に苦労したのはゴキブリの体に合わせて高性能の回路を極端に小型化することだった。

回路から出たワイヤはゴキブリの脳の触角葉という領域に接続してある。ワイヤレスの装置で回路に微弱な電流を流すと、ゴキブリの触角の神経組織が刺激され、ゴキブリは前方に障害物があると思い込んで方向転換する。

この習性を利用してオペレーターはゴキブリの進む方向を制御できる。右の触角葉に電流を流せば、ゴキブリは左に行き、左に流せば右に行く。

過去にもこれと似た装置は開発されているが、ドゥッタらの回路は加速度や角速度を測る高度な慣性計測装置を組み込んでいる点がユニークだ。おかげでゴキブリの進行方向だけでなく、回転運動と直線運動の速度の変化も追跡できる。さらにこの装置は周囲の温度も感知する。ゴキブリの活動は温度の影響を受けるため、重要な機能だ。

とはいえ、まだ課題は多い。ドゥッタらの実験では、人工的な刺激を繰り返すうちにゴキブリの反応が鈍ることも分かった。

指令どおりに動いて、完璧にミッションを果たしてくれるようになるにはさらなる工夫が必要だろう。

<本誌2018年10月02日号掲載>

[2018年10月 2日号掲載]

20241210issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年12月10日号(12月3日発売)は「サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦」特集。地域から地球を救う11のチャレンジとJO1のメンバーが語る「環境のためにできること」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、一部レアメタルの対米輸出を禁止 通商摩擦が拡

ビジネス

南アGDP、第3四半期は前期比-0.3% 予想外の

ビジネス

トルコCPI、11月は前年比+47.09% 利下げ

ワールド

イスラエルがガザ北部を攻撃、14人死亡 南部に退避
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防空システムを政府軍から奪った証拠画像
  • 4
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 5
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 6
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 7
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていた…
  • 8
    なぜジョージアでは「努力」という言葉がないのか?.…
  • 9
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計…
  • 10
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 6
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 7
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 10
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中