最新記事

タイ洞窟少年救出

タイ洞窟の少年たちは見捨てられる寸前だった

2018年10月1日(月)11時40分
ララ・セリグマン

3日後に始まる救出作戦に向けてタムルアン洞窟付近で準備を進める軍関係者(7月5日) Athit Perawongmetha-REUTERS

<奇跡的な救出作戦の骨格を練り上げた米空軍士官が語る緊迫の舞台裏>

成功する確率は高くない――。今年6~7月、タイ北部の洞窟に閉じ込められた少年たちの救出作戦に加わった米空軍のチャールズ・ホッジズ少佐は、そんな厳しい現実を覚悟した時期があったという。

タイの少年サッカーチームのメンバー12人とコーチの計13人が行方不明になったのは6月23日のこと。遊び半分でタムルアン洞窟に入ったものの、大雨で洞窟内の水位が上昇して、出られなくなってしまったのだ。

事故から2カ月以上がたった9月半ば、劇的な救出劇のアメリカ側指揮官を務めたホッジズと、デレク・アンダーソン米空軍曹長が、米メリーランド州で当時の苦労を記者団に語った。

ホッジズ率いる米空軍第353特殊作戦群のチームが、沖縄の嘉手納基地から現場に到着したのは6月28日の午前2時頃。すぐに状況の説明を受けたが、「事態は深刻だった」と、ホッジズは振り返る。「少年たちを発見できない可能性は非常に高いと思った」

アンダーソンたちが洞窟に足を踏み入れたとき、入り口辺りの水深はくるぶしほどだった。それが降り注ぐ雨で1時間もしないうちに約60センチも上昇した。

それから18日間、ホッジズのチームは米空軍第31救難飛行隊、タイ政府、そしてイギリスやオーストラリアの関係者からなる多国籍チームの一員として、救出計画を練り、実行した。

当初、多国籍チームは全長10キロ近い複雑な洞窟の内部について、ほとんど情報を持っていなかった。だがやがて、タムルアン洞窟の構造をよく知るイギリス人ダイバーのバーノン・アンズワースが、少年たちを発見。その情報が救出計画を練る上で重要なカギとなった。

「雨季終了まで待つべき」

タイ政府は一時、少年たちの救助活動は雨季が終わるまで待つべきだと考えた。だが、アメリカのチームは断固反対したという。「今やらなければ終わりだと(タイ政府関係者に)説明した」と、ホッジズは語る。「5〜6カ月後に水が引いたときには手遅れだ。一部でも遺体が見つかればラッキーだろう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中