最新記事

感染

ついに中国でも発生!アフリカ豚コレラの感染が深刻な課題に

2018年9月18日(火)18時00分
松岡由希子

ついに中国でも発生 REUTERS/Kacper Pempel

<養豚業に深刻な影響をもたらすアフリカ豚コレラが、アフリカ、ヨーロッパに拡がり、ついに最大の養豚国の中国でも発生した>

アフリカ豚コレラ(ASF)とは、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)による豚およびイノシシの熱性伝染病で、強い伝染性と高い致死率が特徴だ。感染した豚やイノシシとの直接または間接の接触のほか、ヒメダニ属(軟ダニ)の媒介によって感染が急速に広がることから、養豚業に深刻な影響をもたらしている。

アフリカ、ヨーロッパから中国へ

2005年以降、ASFの発生が確認された国は、ナイジェリア、ケニア、南アフリカ共和国などのアフリカ29カ国と、リトアニア、エストニア、ラトビア、チェコ、ロシアを含む欧州15カ国で、直近では、ルーマニアやポーランドで数多くの発生が確認されている。また、世界最大の養豚国である中国でも、2018年8月3日、遼寧省瀋陽市瀋北新区で初のASFの発生が公表されて以降、9月11日時点で中国国内21カ所においてASFの発生が確認された。

岐阜市で確認されたものとは異なる

ASFは、アジアや欧米で広く知られ、日本でも2018年9月に岐阜市の養豚場で発生が確認された「豚コレラ」と臨床症状や病理所見が類似するものの、これとは異なるアスファウイルス科のASFVの感染によって引き起こされる。

ヒトへの感染リスクはないが、ヒメダニ属のほか、イボイノシシをはじめとするイノシシの一部では、感染が成立していながら症状が現れない「不顕性感染」を示すため、これらがASFの"キャリア"となって他個体に感染を広げてしまうおそれがあるうえ、現時点で有効なワクチンや治療法は見つかっていない。

アフリカ大陸のサハラ砂漠以南で常在するASFは、アフリカ大陸外では、1957年にポルトガルで初の発生が確認され、1980年代末にかけて、スペイン、イタリア、フランス、ベルギー、オランダにも感染が広がった。

その後、欧州では、イタリアのサルジニア島を除き、ASFの清浄化が達成されたとみられていたが、2007年6月に黒海東岸のジョージアで発生が確認されたのを契機にアルメニア、アゼルバイジャン、ロシアへと感染が広がり、2014年以降は、リトアニア、ポーランド、ラトビア、エストニアなどでも、その発生が次々と報告されている。エストニアでは、ASFの発生に伴って2015年から2017年までに4万2000頭以上の豚が処分された。

野生イノシシ侵入を防ぐためにドイツは国境にフェンス

このような状況を受けて、ASFの発生がまだ確認されていない国でも、その予防には余念がない。ドイツでは、2018年1月、ドイツ農業連盟(DBV)がASFの発生予防策として野生イノシシの駆除を求めているほか、デンマークでは、2018年8月、環境保護庁が、野生イノシシの侵入を防止するため、ドイツとの国境に70キロメートルにわたって高さ1.2メートルから1.5メートルのフェンスを建設することを承認した。

日本では、これまでにASFの発生は確認されていないが、2007年に初の発生が確認されたロシアに続き、このほど中国でも発生が確認されたことから、農林水産省では、最新の情報を発信し、発生予防に向けた対策をとるよう広く呼びかけている。


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ最高値、銀行の好決

ワールド

CNN、23日にハリス氏とのタウンホール開催 トラ

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、一連の経済指標を消化

ワールド

ロシア、日本に抗議 米との合同軍事演習「容認できず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米経済のリアル
特集:米経済のリアル
2024年10月15日号(10/ 8発売)

経済指標は良好だが、猛烈な物価上昇に苦しむ多くのアメリカ国民にその実感はない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    「メーガン妃のスタッフいじめ」を最初に報じたイギリス人記者が見た、「メーガン妃問題」とは?
  • 3
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明かす意外な死の真相
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 5
    北朝鮮製ミサイルに手を焼くウクライナ、ロシア領内…
  • 6
    南極「終末の氷河」に崩壊の危機、最大3m超の海面上…
  • 7
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 8
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 9
    【クイズ】ノーベル賞の受賞者が1番多い国は?
  • 10
    ウクライナには「F16が緊急にもっと必要」だが、フラ…
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティアラが織りなす「感傷的な物語」
  • 3
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた「まさかのもの」とは?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 5
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 6
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」…
  • 7
    ウクライナ軍がミサイル基地にもなる黒海の石油施設…
  • 8
    戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイス…
  • 9
    「核兵器を除く世界最強の爆弾」 ハルキウ州での「巨…
  • 10
    「メーガン妃のスタッフいじめ」を最初に報じたイギ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 3
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 4
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 5
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 6
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 7
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 8
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 9
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 10
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中