最新記事

パレスチナ支援

トランプ政権の支援停止決定で、国連のパレスチナ難民支援機関が財政危機に

2018年9月1日(土)12時00分
錦田愛子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授)

ガザ地区の学校で演説するUNRWAのピエール・クレヘンビュール事務局長 REUTERS/Suhaib Salem

<米政府は8月31日、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)に対するアメリカの支援を全面的に打ち切ることを発表し、反発が広まっている>

トランプ政権による資金凍結の決定で、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)は今、かつてなき財政危機を迎えている。アメリカの国務省は8月31日、UNRWAに対するアメリカの支援を全面的に打ち切ることを発表した。

エルサレムへの大使館移転など、イスラエル寄りの強硬姿勢を示すトランプ政権は、2017年は3億6千万ドルを超えていたUNRWAに対する拠出金を、今年は6千万ドルにまで削減することを既に1月の段階で発表していた。実に80パーセント以上の支援減額だ。

これに加えて、先週の8月24日には、拠出金とは別にガザ地区等に対して直接送られる予定だった2億ドル超の経済援助を、他の用途に振り替えることが発表されていた。今回の発表は、これらの段階的な削減の発表にとどめを刺すものといえる。

こうした支援の停止は、パレスチナ難民に対する支援に深刻な影響を与えることが懸念されている。UNRWAによる支援は教育、保健、戦闘で破壊されたインフラの整備の他に、貧窮家庭への食糧給付も含まれる。パレスチナ自治区であるヨルダン川西岸地区、ガザ地区のほかにヨルダン、シリア、レバノンを活動地に、58か所の難民キャンプで、702の学校、144の診療所がUNRWAによって運営されている。2006年以降経済制裁下におかれたガザ地区では特に、住民の8割がこれらの支援に頼り生活している状態だ。

パレスチナ難民を70年間支援してきたUNRWA

UNRWAはイスラエル建国後に70万人超のパレスチナ難民が生じたことを受けて、1949年の国連総会決議により設立された。以後、パレスチナ難民に対して70年間にわたり支援を続けてきた。その活動資金は、運営のためのわずかな国連予算を除けば、ほとんどが国連の193の加盟国からの拠出金および寄付により成り立つ。最大ドナーであるアメリカからの支援額は、全体の約3割を占めていた。そのアメリカが、トランプ政権の発足以降、方針を転換し、パレスチナに対する支援を打ち切ってきている。

年明けの拠出金削減の発表を受けて、UNRWAでは夏以前の段階で既に、通常の業務継続が困難となる財政破綻が予見されていた。この窮状を各国メディアに対して訴えるため、今年6月末には世界各国の研究者や保健分野の関係者から署名を集めたオープンレターが準備された。

UNRWA事務局長のピエール・クレヘンビュールは、今回の危機がUNRWA創設以来最悪の事態であると訴えている。教職員への給与の支払いが困難であるため、9月以降の学校での授業再開は直前まで危ぶまれた。だが子どもたちの教育を受ける権利を守るため、2億ドルの資金不足にも関わらず、UNRWAは予定通りの秋学期授業の再開に踏み切った

そのしわ寄せは、他の事業部門に及んでいる。UNRWAではパレスチナ人職員の契約打ち切りや、パートタイムへの移行を余儀なくされ、ガザ地区では職を失う人々による座り込みなどの抗議運動が始まっている。長年の封鎖に苦しむガザ地区では、失業率が40パーセントを超え、零細農業や紛争の度に打撃を受ける製造業の他には、国際機関やNGOでの就業が貴重な職を提供してきた。

雇用の機会が乏しいガザ地区で、解雇は大きな打撃だ。とはいえ長年に及ぶ支援活動を通して、誰よりもそれを熟知しているはずのUNRWAがそうした手段に踏み切らざるを得ないということ自体が、事態の深刻さを示していると言えよう。UNRWAは教員や職員としてパレスチナ人を雇うことによる雇用創出そのものを、活動目的や事業の一部としてきたからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍は「永遠に」戦争可能 大勝利に万全

ワールド

トランプ氏、イランは協議望むも「すでに手遅れ」 指

ワールド

中東紛争4日目、攻撃広がり犠牲増加 想定以上に作戦

ビジネス

ニデック第三者委「永守氏が一部不正容認」、業績圧力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び率を記録した「勝因」と「今後の課題」
  • 4
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 5
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 6
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 9
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 10
    「日本食ブーム」は止まらない...抹茶、日本酒に「あ…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 10
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中