最新記事

人権問題

ベトナム高裁、人権活動家の控訴審で禁固13年 人権・民主活動家に厳罰で臨む政府

2018年9月17日(月)07時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

上級審へ訴えることで政府の人権迫害を世界へ伝えるグエン・ヴァン・トゥック被告 (c) VOA Tiếng Việt / YouTube

<9月11日から日本の河野太郎外相をはじめ、アジアの主要閣僚らが参加する「ASEANに関する世界経済フォーラム」が開催されたベトナム。だが、その一方でこの国では人権活動家が次々と不当拘束され、裁判で有罪を受けている──>

ベトナム北部紅河デルタ地帯にあるタイビン省の高等人民裁判所は9月14日、国家転覆容疑で禁固13年の下級審判決を受けた民主活動家グエン・ヴァン・トゥック被告(54)に対する控訴審で、下級審判決を支持する判断を下し、禁固13年の実刑判決が維持された。

ベトナムでは最近、民主活動家、人権運動家、ブロガーなどに対し、社会・国家の安全を脅かしたとして国家転覆罪などを適用して長期の禁固刑とするなど厳しい判決がでる裁判が続いている。

国際的な人権擁護団体などからは手厳しい批判が出ているが、ベトナム政府は「国内の治安維持は優先課題」として一向に意に介さない姿勢を続けており、民主化組織や活動家などにとっては長く厳しい時代がなお続いている。

「筋金入り」の活動家に厳しい司法判断

トゥック被告はベトナムのネットで同志が集うオンライン組織「民主主義の結社」の主要メンバーのひとりで、その積極的な活動がベトナム刑法79条の「国家転覆罪」に違反するとして身柄を拘束、裁判を受けていた。

同被告は以前、2008年にも刑法88条の「反国家プロパガンダ違反」で禁固4年の実刑判決を受け服役。2012年に釈放され活動を再開していた。

2018年4月10日に下級審で禁固13年の実刑判決を受けたトゥック被告は控訴して無実を訴えていたが、控訴審も下級審と同じ判決が下された。政府寄りが顕著なベトナムの司法制度だが、特に人権や民主化に関する裁判では一度出された判決が覆ったり、減刑されたりすることはほぼ不可能といわれている。

判決を伝える「ラジオ・フリー・アジア」(本拠地・米ワシントンDC)によるとトゥック被告の控訴審での判決公判を傍聴した妻のブイ・ティ・レさんは「夫は刑が軽くなることなど期待していなかった。夫は政府転覆などに一切関与してなどいません」と容疑への関わりを否定して無罪を主張した。

その上で「夫はただ控訴審を通じてベトナムにおける多元論の必要性や国民の平等を改めて訴えたかっただけです」と述べ、法廷でのトゥック被告の揺るぎない信念を称えた。

またレさんは、収監中に体調の不良を訴えていたトゥック被告について「今は血圧も安定しています」と健康状態に心配ないことを強調するとともに、トゥック被告が控訴審判決も不満として上告する意向を示したことも明らかにした。

このようにトゥック被告は言ってみれば「筋金入りの活動家」で、それが当局の怒りを倍増させ、今回の禁固13年という長期の実刑判決に繋がったとみられている。


グエン・ヴァン・トゥック被告の控訴棄却について伝えるニュース  VOA Tiếng Việt / YouTube

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ベライゾン、過去最大の1.5万人削減へ 新CEOの

ビジネス

FRB、慎重な対応必要 利下げ余地限定的=セントル

ビジネス

今年のドル安「懸念せず」、公正価値に整合=米クリー

ワールド

パキスタン、自爆事件にアフガン関与と非難 「タリバ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中