最新記事

北朝鮮

トランプvs.金正恩、腹の探り合い

2018年8月30日(木)13時10分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

一方、金正恩にしてみれば、北が先にリストをアメリカに提出したということが自国民に分かると、「なんだ、お前はアメリカに降伏したのか」と非難されかねない。だからポンペオにリストを渡すのは「極秘」でなければならないわけだ。つまり、ポンペオは北からリストをもらった場合は、もらったことを伏せて帰国しなければならないのである。

だとすれば、せめて金正恩にでも会ったという形を取らなければ、今度はポンペオが「なんだ、お前は手ぶらで帰って来たのか」という誹りをアメリカ国民から受けることになり、トランプも第1回の米朝首脳会談の成果をアメリカ国民に見せることができなくなる。

なのに、ナウアートは記者会見で、8月の訪朝でポンペオは金正恩に会う予定はないと言っていた。したがって、たとえポンペオの訪朝が実現したとしても、好ましくないわけだ。

それだけでもトランプが中止を命じる十分な理由があった。

ナウアートはまた記者会見で、北朝鮮との核交渉の停滞が指摘されていることに関して、「この6カ月間に北朝鮮と対話と協議を重ねてきた事実こそが重要だ」と言っている。ということは、水面下でリストのたたき台の交換は行われているはずで、おそらくリストのレベルがアメリカにとっては不満足なものだったものと考えられる。

北朝鮮としては、アメリカが終戦宣言をしますと言わない限り、完全なリストを出す気はない。アメリカとしては、完全なリストを提出させて、非核化の意思が本物だと確認できない限り、終戦宣言のプレゼントはできないという、イタチゴッコだ。どちらが先に折れるのかという問題になる。

落としどころ

したがって、冒頭に書いたようにポンペオが訪朝を中止した理由は、必ずしも北朝鮮からの「好戦的な書簡」だけが原因ではないだろうということが考えられる。

これはシンガポール会談の前にも行なわれた類似のディールで、今回は北朝鮮が先に脅しをかけてきた。

中国の中央テレビ局CCTVでは、日本の防衛相が8月23日、日米合同訓練を、今年は北海道で行なうと発表したが、結局アメリカは米韓合同軍事演習を一時的に控えているものの、日本と合同軍事演習に近い訓練を行う。北朝鮮は、そのことにも強く反応しているのであると解説した。だから8月24日に書簡を出したのだと。

これはいくら中国でも、言いがかりが過ぎるのではないだろうかと、驚きながら観た。日米合同訓練は、あなた方、中国をも対象として行なわれているんですよと思ったが、一方では、中国は金正恩の戦略には深く入り込んでいないなという印象を持った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUが2兆ユーロの次期7カ年予算案提示、防衛と競争

ビジネス

再送米経済活動は小幅拡大、物価は上昇 見通しやや悲

ワールド

イラク・クルド自治区の油田にドローン攻撃、施設損傷

ビジネス

再送-〔アングル〕円安への備え進むオプション市場、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏にも送電開始「驚きの発電法」とは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 5
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 6
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 9
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 10
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中