最新記事

北朝鮮

トランプvs.金正恩、腹の探り合い

2018年8月30日(木)13時10分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

なぜならこれまで、「朝鮮戦争はまだ終わっていないし、休戦状態なのにアメリカ帝国主義が憎き南と手を組んで合同軍事演習を展開し、北朝鮮に挑みかかっている。だから徹底抗戦をしなければならない」と言いまくって来たのに、ここで突如、「核ミサイルは完成したので、あとは米韓と対話路線に入る」と言ったところで、兵士たちは「じゃあ、戦争は終わったのだという証拠を見せろ」と迫ってくるだろう。この一枚の紙切れを見せない限り、軍隊を納得させることはできないのである。

「終戦宣言と核申告リスト」同時交換

だからこそ、6月12日の米朝首脳会談の共同声明では第2項に、「アメリカと北朝鮮は、朝鮮半島において持続的で安定した平和体制を築くために共に努力する」と謳ったのだった。これは金正恩にとっては、絶対に譲れない線である。そうでないと、非核化をしようにも、国内情勢が許さないからだ。

ポンペオはシンガポールの共同声明後、せめて「核申告リストを提出するように」と北朝鮮に要求している。完全な非核化には膨大な年月と費用がかかる。そんなのを待っているわけにはいかない。北朝鮮にもそのような経済的ゆとりはない。だから北朝鮮も申告リストを提出すべく準備し、米朝両国はおおむね「終戦宣言と核申告リスト」の同時交換で共通認識を持っているはずだ。この根拠に関しては月刊『Hanada』10月号で、李英和(リ・ヨンファ)教授との対談の形で詳述した。

結論的に言うならば、今のところ「同時交換」以外には、戦争か北朝鮮の核保有国化かの道しか選択の道がないのである。

トランプとて、自分が決意したシンガポールでの米中首脳会談が成功だったと自慢したいわけだから、今さら戦争の道を選ぶつもりはないだろう。それをすれば、笑い者になってしまう。二期目の大統領当選は諦めなければならないだろう。

金正恩にはなおさら退路がないのである。

だからトランプと金正恩は腹の中では「同時交換」しかないと、分かっているはずだ。

手ぶらで帰るわけにいかなかったポンペオ

同時交換をするには、まず北朝鮮からリストをもらって、アメリカ側で精査しなければならない。目の前でいきなり同時交換というわけにはいかない。

そこでポンペオは、第2回の米朝首脳会談の下準備のために、リストをもらいに訪朝しようとした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレ基調指標、10月の刈り込み平均値は前年比2

ワールド

米民主党上院議員、核実験を再開しないようトランプ氏

ビジネス

ノボノルディスクの次世代肥満症薬、中間試験で良好な

ワールド

トランプ氏、オバマケア補助金延長に反対も「何らかの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中