最新記事
サイエンス

リバースエイジング! 英大学が、ヒトの老化細胞を若返らせることに成功

2018年8月22日(水)17時30分
松岡由希子

ヒトの老化細胞を若返らせることに成功 image credit:Lorna Harries / Matt Whiteman

<英エクセター大学の研究者が、ヒトの老化細胞を若返らせることに成功した>

寄る年波には勝てぬ----。私たちは、生きている限り、加齢には抗えない。しかし、このほど、組織や器官における老化細胞に着目し、細胞の若返りを試みる研究成果が公開された。

ヒトの老化細胞を若返らせることに成功

英エクセター大学の研究プロジェクトは、老化したヒトの内皮細胞に少量の硫化水素を加え、加齢に伴って体内での生成量が減っていく「スプライシング因子」のレベルを人為的に高めることで、ヒトの老化細胞を若返らせることに成功した。

老化細胞とは、本来のように機能しなくなり、周囲の細胞の機能を悪化させる古い細胞をいう。2011年11月に公表された米メイヨー医科大学の研究では、早老症マウスの老化細胞を除去することで、加齢に伴う疾病の進行を遅らせることができた。

加齢に伴って細胞が老化する原因については、DNA損傷や炎症といったストレスへの曝露のほか、細胞分裂に伴うテロメア(染色体末端)の短縮などが指摘されているが、まだ完全に解明されていない。

加齢で「スプライシング因子」の量が減っていく

英ブラントン大学の研究チームが2017年7月にまとめた研究論文では、「適時適所で遺伝子のオンオフを切り替える力が失われることが、老化の一因なのではないか」との見解が示されている。

ヒトの組織にある遺伝子の95%以上は細胞のニーズに応じて異なるメッセージを発することができ、「スプライシング因子」と呼ばれる約300種類のタンパク質が、ある時点でどのメッセージを発するかを決定している。

加齢に伴って、体内で生成される「スプライシング因子」の量が減っていくと、遺伝子が環境変化に対応してオンオフの切り替えをしづらくなるというわけだ。

(参考記事)老化はもうすぐ「治療できる病気」になる

硫化水素を細胞内のミトコンドリアに注入

英エクセター大学の研究プロジェクトでは、私たちの体内に存在し、加齢に伴う疾病の改善にも寄与する硫化水素を細胞内のミトコンドリアに直接注入することで、「スプライシング因子」に働きかけ、老化細胞の若返りを試みたところ、老化細胞の負荷を50%軽減できた。

データ解析により、とりわけ「SRSF2」と「hnRNP」の2種類の「スプライシング因子」が内皮細胞の老化に関与していることも明らかになっている。これらの「スプライシング因子」に集中的に働きかけることで、細胞の老化を効果的に調整することができるかもしれない。

加齢による疾患の進行を遅らせたり、さらには、若返りや不老不死の実現に近づく第一歩として、実に興味深い研究成果といえるだろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中