最新記事

心理

世界に吹き出したデスカフェ旋風

CHATTING AT THE DEATH CAFÉ

2018年8月22日(水)16時10分
佐伯直美(本誌記者)

――デスカフェは悩みを相談したり、情報を得るための場ではないというわけだが、参加することでどんなふうに役立つ?

実際参加すると、ほかの人と語り合うことで自分自身について新たな発見や学びがあったと言う人が多い。死について安心して語れる――それだけでも大きな効果がある。

デスカフェのいいところは「専門家」がいないこと。参加者はほかの人との議論を通して学んでいく。私のようにホスピスで働いていて、死を目前にした人々と日々付き合っている者でさえ、毎回何かしら学ぶことがある。謙虚な気持ちになれるし、生や死について世の中にはさまざまな見方があるのだと気付かせてくれる。私の祖母は生前にいつも言っていた。「誰もが自分自身で答えを見いださなければいけない」、とね。

――参加者の多くは初対面? 知らない人といきなり死について語り合うのは難しい気がするけれど、逆にそのほうが話しやすい?

そのとおり。参加者はほとんどが初対面で、誰かと一緒に来た人はあえて席を離す。3~4人ごとにテーブルを分けて、最初は私が説明をしながら、各自に「雨の降る土曜日の午前中に、わざわざ家から出て死について語りに来た理由」を話してもらう。

誰も無理強いしたりしないから、内気な人も打ち解けやすい。5分もしないうちに、どのテーブルでも奥の深い会話が交わされるようになる。自分が話したかったことを、ようやく誰かと語り合えるのがうれしいのだろう。

――思いがけない発見はあったか。

初めてデスカフェを開いたときには、参加者が感情的になるだろうと思ってティッシュを数箱用意していた。でも実際は、そういうことはあまり起きない。(むしろ)笑い声がたくさん聞こえる。会話が変な方向に展開して、果たして全裸で埋葬することは認められるかどうかについて盛り上がってしまったこともある。

アメリカで起きている銃乱射の話がもっと出てくると思っていたけど、そうでもない。自分の町で起きたりしないと話題に上がらないのかも。

――若者にもこういう場は必要?

ポジティブな姿勢で、死について自分なりの考えを持つことは大切。それによって生き方が変わる可能性だってある。

いま私は大学の授業の一部として、デスカフェのイベントを行っている。学生は死について語れる場がない。だからそうした話をするのは不慣れだけど、デスカフェに参加した人たちは、たくさんの学びがあったし、役に立ったと言ってくれる。高校や大学などの授業でも、もっと死についての教育を取り入れていくべきだと思う。

<本誌2018年7月24日号「特集:人生が豊かになる スウェーデン式終活」より転載>

ニューズウィーク日本版 ジョン・レノン暗殺の真実
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月16日号(12月9日発売)は「ジョン・レノン暗殺の真実」特集。衝撃の事件から45年、暗殺犯が日本人ジャーナリストに語った「真相」 文・青木冨貴子

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中