最新記事

「終活」新潮流

死後に家族が困らない、デジタル遺産の管理・対策

THE DIGITAL AFTERLIFE IS A MESS

2018年8月2日(木)17時30分
ナオミ・カーン、佐伯直美(本誌記者)

まずは現状把握と分類から

でも、あなたの兄がこうした手続きをしたり、遺言を残したりしていなかったら? その場合はアカウントのサービス利用規約によって、デジタル遺産の扱いが決まる。ただし規約の多くは、ユーザー死亡後の遺族の相続に関することまでは視野に入れていない。

最後のとりでとして、アメリカには「デジタル資産への受託アクセス法」がある。およそ90%の州で制定されており、遺族などの受託者がデジタル遺産のほとんどを適正に相続できるようにするものだ。

日本ではそうした法整備は進んでおらず、遺族が本人の許可なしにアカウントにログインする例が少なくない。プロバイダーなどの利用規約に反している恐れはあるものの、時間的、物理的な必要に迫られた行為であり、事実上黙認されることが多い。

こうなると今の時代に必要なのは、自分の身に何かが起きる前にデジタル遺産をきちんと管理しておくことだ。いくつかの具体的な方法をここに記してみよう。

まずは、現状の確認から。自分のパソコンやスマートフォンの中に何があるかを把握して、全てのアカウントやパスワードを含むデジタル遺産の目録を作る。そして「家族に託すべきもの」と「人に見られたくないもの」を分けておく。

前者はスマホやパソコンのパスワード、ネット口座といった財産関連のIDやパスワードなど。こうした情報は紙に記して渡しておくか、家族が見つけられるような場所に保管しておくのが確実だ。友人や仕事関係の住所録、家族に残したい写真や動画は、デスクトップなどの分かりやすい場所に保管するのがいいだろう。

次に、オンラインの管理ツールを利用する。前述したグーグルのアカウント無効化管理ツールや、フェイスブックの追悼アカウント管理人を設定してみよう。一定の期間にアカウントの利用がなければ、データを自動削除してくれるサービスもある。いったん削除したものは絶対に復元できない設定のものもあるので、他人に知られたくないデータがあるときには便利で安心だ。

3つ目は、デジタル遺産を全てまとめた遺産相続書類を簡単に書いておくことだ。あなたのアカウントにアクセスする受託人になってほしいのは誰か、その人にはどの程度のアクセス権限を持たせたいかなどを考える。スマホやパソコン、ネット口座などのIDやパスワード情報はこうした書類と一緒に保管しておくのもいい。

ちょっと退屈で、嫌な作業かもしれない。誰だって、自分が死ぬときのことなんて考えたくはない。そしてもちろん、これは法律的な助言ではない。それでも、デジタル遺産の相続計画があれば、もしものときに家族や友人にとっては大変な助けになる。

本誌2018年7月24日号「特集:スウェーデン式終活」より転載

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独VW、中国合弁工場閉鎖へ 生産すでに停止=独紙

ビジネス

ECB、ディスインフレ傾向強まれば金融緩和継続を=

ワールド

米中外相がマレーシアで会談、対面での初協議

ワールド

米政府、大規模人員削減加速へ 最高裁の判断受け=関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中