最新記事

個人情報

W杯、首にかけたファンIDカード情報の行方が問題

2018年7月11日(水)19時00分
松丸さとみ

フランス強いですね。胸からぶら下げたファンIDの管理もお気をつけ下さい Toru Hanai-REUTERS

<ロシアW杯で試合会場に入場するのに必須の身分証明書「ファンID」が初めて試みられた。テロ&フーリガン対策だが、今後のデータの漏えいや紛失が懸念されている>

個人情報が盛りだくさんのファンID

現在ロシアで開催中のサッカー・ワールドカップ(W杯)で、初の試みがなされている。「ファンID」だ。氏名、生年月日、パスポート番号、住所、電話番号、メールアドレスといった重要な個人情報を記録した、首から下げるタイプのパスポートサイズのIDカードだ。

試合会場に入場するには必須の身分証明書で、これがあればロシアへのビザが不要になる上、開催都市間の移動手段が一部無料で提供されたり、レストランなどで割引が受けられたりして、ファンにとってもありがたいものになっている。

米紙ニューヨーク・タイムズは、「一生の思い出」とこのIDを喜んでいるファンがいる一方で、データの漏えいや紛失の不安は拭えない、と伝えている。

同紙によると、ロシアは今回のW杯開催で、これまでの経験にないほどの外国人観光客を受け入れている。当然ながら、テロリストや凶暴なフーリガンが入国する可能性にも直面する。そこで活躍するのが、ファンIDというわけだ。

W杯を観戦する160万人に配布され、全員のバックグラウンド・チェックを済ませたとされている。ファンIDが配布された人物の中には当然ながら、プーチン大統領の招きで観戦している国際サッカー連盟(FIFA)のゼップ・ブラッター元会長や、アルゼンチンの英雄的存在ディエゴ・マラドーナ元選手といった著名人も含まれる。

国際ハッカーが暗躍する国での個人情報収集

一方で、個人情報に関するセキュリティへの不安は拭えない。データは、FIFAとの合意に基づきロシアの通信マスコミ省が記録し、機密情報として厳格に扱うとロシア側は説明している。

しかしニューヨーク・タイムズは、ロシアを拠点とする国際ハッカーがいると言われていることや、ロシアでは政府が国民を監視してきたという長い歴史があることから、個人情報データのセキュリティを懸念する声が上がっていると伝える。

貴重な個人情報と引き換えに無料のグッズなどが提供される「監視経済」の一環だと指摘するのは、米ブラウン大学で教鞭を執るサイバーセキュリティの専門家ティモシー・エドガー氏だ。「ロシアは大会後、情報を速やかに破棄するべき。さもないと、漏えいや紛失の可能性が出て来る」とニューヨーク・タイムズに述べた。

インドの英字日刊紙フィナンシャル・エクスプレスは、「インド版マイナンバー」と呼ばれる「アドハー」にファンIDをなぞらえる。アドハーはインドが導入している生体認証IDで、国民の指紋や虹彩の情報を登録している。銀行口座の開設や携帯電話のSIMカードの購入ができるほか、国の補助金などを受け取る際にもアドハーを使用する。

しかしインドのメディア「Scroll.in」はアドハーを「世界最大の監視エンジン」と描写し、プライバシーの終焉だと報じている。ファンIDも同様に、プライバシーの侵害だと受け止める向きもあるようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米CIA、中国高官に機密情報の提供呼びかける動画公

ビジネス

米バークシャーによる株買い増し、「戦略に信任得てい

ビジネス

スイス銀行資本規制、国内銀に不利とは言えずとバーゼ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中