最新記事

戦争

市街地が戦場になる......中東で進む「スターリングラード」化

2018年7月18日(水)17時40分
アントニオ・サンパイオ(国際戦略研究所研究員)

アレッポの市街戦(2015年1月) Mahmoud Hebbo-REUTERS

<前線が遠い国境地帯だったのは昔の話、中東では長期的な市街戦が増えて市民生活に甚大な損害を与えている>

最近の中東の紛争では、大都市が激戦地になることが増えた。

シリア内戦では商都アレッポが、テロ組織ISIS(自称イスラム国)掃討作戦ではラッカ(シリア)と産油地モスル(イラク)が、リビア内戦では港町ミスラタとベンガジが、そしてイエメン内戦では港町アデンと元首都タイズが、悲劇的な激戦の代名詞となった。

市街戦自体は決して新しいものではない。だが、国家同士が衝突するのではなく、民兵組織や反政府勢力が政府軍と衝突するパターンが増えた今、都市は残虐な戦いの中心になった。アメリカの都市社会学者マイク・デービスが、06年の著書『スラムの惑星──都市貧困のグローバル化』(邦訳・明石書店)で描いた世界にそっくりだ。

「スズメバチのような武装ヘリコプターが夜な夜なやって来て、スラム街の細道に逃げ込んだ敵を追い回し、掘っ立て小屋や逃走車にミサイルを撃ち込む。朝になると、スラムは自爆テロ犯による雄弁な爆破という返事をする」

イエメン西部の港町ホデイダは、こうした市街戦が長期化する最新例になりそうだ。イエメンでは3年前から、サウジアラビアとアラブ首長国連邦が支援するイエメン政府(アラブ諸国連合軍)が、イスラム教ザイド派(シーア派の一派)の反政府勢力ホーシー派を排除するべく、激しい戦闘を繰り広げてきた。

紅海に面するホデイダは、約60万人の人口を擁するイエメン屈指の港町で、国連の人道援助物資が到着する場所でもある。そこでの戦闘の激化を受け、欧米諸国が停戦を提案したり、国連が港の平和的な移管仲介を申し出てきたが、危機的状況は変わっていない。

20世紀の大戦争は、国境付近が戦場となることがほとんどで、第二次大戦の独ソ戦の激戦地スターリングラード(現ボルゴグラード)のような市街戦は例外的だった。だが最近の戦争は、反乱軍や宗派的民兵組織が一般市民に紛れ込むことで、政府軍に対する軍事的不利をカバーしている。

彼らは市街地の中でも、無秩序に広がる人口密度の高い地区を拠点にして、人間の盾やカモフラージュに利用する。こうした地区は、いわばスラムに近く、当局の目が届きにくいため、反政府勢力だけでなく国際的な犯罪組織にとっても都合がいい。

中東と北アフリカ諸国では、20世紀後半に急速かつ無秩序な都市化が進んだ。80年代は50%以下だった都市住民の割合は、00年には60%近くまで上昇した。こうした環境が政治的・宗教的対立の舞台を提供した例として、イラクのサドルシティーがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州評議会、ウクライナ損害賠償へ新組織 創設案に3

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人 失業率は4年

ワールド

ハセット氏、FRBの独立性強調 「大統領に近い」批

ビジネス

米企業在庫9月は0.2%増、予想を小幅上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中