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30代・年収2億円の中国人夫婦「残念な」東京旅行 日本の誇る「おもてなし」の弱点とは?

2018年7月6日(金)18時20分
劉 瀟瀟(三菱総合研究所 研究員)※東洋経済オンラインより転載

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銀座にあったタクシー乗り場の案内。こういった看板も確かにあるが、外国人にはわかりにくい(筆者撮影)

おそらく、日本社会全体が中流中心になっており、富裕層に不慣れなところが多く、外国人富裕層の移動事情もよく理解できていないためだろう。

外国人にわかる夜の銀座のタクシー乗り場の案内、外国語が通じるタクシーの増加、多言語タクシーアプリの普及化、またホテルと連携した移動サービスなどで、「いらっしゃい訪日客」という意識があることをちゃんと伝える必要があるだろう。

夫婦が帰国するとき、「またいらっしゃってください」とあいさつしたら、「はい、また来ます」と明るく返事をもらった。

レストランもタクシーの件もあって半信半疑に「本当ですか?」と投げかけてみたが、「はい、また来ます。次は築地で本当に新鮮なおすしとウニ丼を食べたいし、エルメスがいつも東京で買えたので、また買いに行きたいです」と妻が言った。

「また来ます...」発言の真意

「お店も厳しいし、移動もいろいろ大変みたいですが......」とさらに掘り下げようとしたら、「だって、日本は厳しいってみんな知っているよ。自分が欲しいものがあるからまた遊びに行きます」と。

なるほど。日本が外国人観光客に厳しいことは、よく知られていることだった! リピーターの増加や「恐ろしい」口コミの拡散スピードで特に富裕層の間で広まっているようだ。

実際、その夫婦の紹介でほかの訪日富裕層の方にもインタビューしたが、みんな淡々としたいこと(買い物、観光、スキーなど)を済ませて帰国した。それはつまり、日本の自慢の「おもてなし」に期待をしなくなったということだ。築地はおもてなしというより観光地+新鮮さで有名なので一度行ってみたい。エルメスのバーキンや超高級時計を買えるかどうかは「運」が必要なので、たまたま東京での「運」がよかったのでまた買いに行きたいと思う。

相変わらずの高い消費額だが、いつの間にか他国と差別化できる「温かい人情」「friendly city」などの要素が彼らの口から語られる感想に入らなくなっている。

物流がどんどん発達しており、いつか築地鮮度の食材が中国でも食べられるだろうし、運がいいところはほかにもあるはず。富裕層の誘致には、値段相応、かつ唯一無二の体験の提供が不可欠であり、それがいつの間にか消えている感じがした。

東京オリンピック・パラリンピックまであと2年、観光立国の正念場になる時期だと、いま一度、訪日中国人富裕層に提供すべきものを再検討すべきなのではないかと思う。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
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