最新記事

動物

インドネシア、住民死亡の敵討ちでワニ292匹を虐殺 一番怖いのはヒトだった

2018年7月18日(水)12時21分
大塚智彦(PanAsiaNews)

積み重ねられたワニの死骸 Antara Foto Agency-REUTERS

<野生のワニが人間を襲う事件が後を絶たないインドネシアで、今度は人間がワニを襲うという事件が起きた>

インドネシア東端のニューギニア島にある西パプア州ソロンにあるマリアット郡で住民の男性1人がワニに襲われ死亡する事故が起きた。これに怒った親族や付近の住民数百人が7月14日にワニの飼育施設を武器を持って襲撃、「報復」として飼育されていたワニ292匹を殺した。

地元警察や自然保護局では自然保護法や財産保護法に違反する可能性があるとして捜査を始めた。事件当時、ワニ殺害の現場には警察官らがいたものの、暴徒化した住民の「ワニ殺戮」にただ静観するしかなかったという。

現地からの報道等を総合すると、7月13日にワニ飼育施設の近くに住む住民の男性(48)が家畜の飼料になる草を探していたところ、誤って飼育施設内に転落してしまった。

男性の叫び声を聞いた飼育場の従業員が駆けつけると、男性が脚や頭など複数個所をワニに噛まれ、ワニの尾で叩きつけられた状態で発見された。直ちに救出したものの同日中に死亡が確認された。

翌14日にこの男性の葬儀が終わると、参列していた親族や友人、さらに地域の住民が地元警察に押し寄せ「危険なワニ園がなぜ人の居住地区の近くにあるのか」などと抗議を始めた。警察は事態の収拾を目指して飼育施設の所有者などと協議の結果「飼育施設側が男性の家族に賠償金を支払う」ということで沈静化を図った。

怒り収まらずワニ飼育施設襲撃

しかし一部の住民らは怒りが収まらず、約1キロ先の飼育施設に武器を持って押しかける事態になった。騒ぎを聞きつけた周辺住民ら数百人も加わり暴徒化、飼育施設の従業員や警察官の制止を振り切って飼育施設の正面ゲートを破壊して内部に侵入した。

そして地上や池の中にいたワニを引きずり出したり、ロープで固定したりして次々と斧やハンマー、刃物、シャベルなどで殺していった。凄惨な殺戮現場には体長2メートルの巨大ワニから生後間もない体長10センチから20センチのワニも含まれ、同飼育園で飼育されているワニはほぼ全滅となった。飼育園によると今回の住民の襲撃による被害額は総額で約4億ルピア(約320万円)に上るという。

一部のワニはその後焼却されたという。現場には市の役人や警察官などもいたといわれているが、暴徒化した住民を制止することは難しく、傍観しているしかできなかったというが詳しい経緯は現在捜査中という。

ワニ飼育施設は正式の許認可で開設

西パプア州の天然資源保護局ではこうしたワニの大量殺害を厳しく非難するとともに自然保護法や他人の財産破壊法に違反する可能性があるとみて「地元警察と協力して捜査を進めたい」としているがこれまでに関係者が逮捕されたとの報道はない。

襲撃されたワニ飼育施設は2008年に環境林業省から正式の許認可を受けて開設され、特定種のワニの飼育・保護に当たっていた。

許認可条件の中に「地域社会に害を及ぼさない」との一項があることから、住宅地区から約1キロの距離が妥当な条件だったのか、についての見直しも進められるという。

環境林業省では7月16日に同飼育園の営業許可を停止する措置を講じた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルと米のイラン攻撃、誤ったシグナル発信し悪

ワールド

ロ、中距離極超音速ミサイルの生産増強 プーチン氏「

ビジネス

米総合PMI、6月は52.8に低下 製造業価格指標

ビジネス

7月利下げ支持、インフレ圧力抑制なら=ボウマンFR
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 8
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    【クイズ】次のうち、中国の資金援助を受けていない…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中