最新記事

中央アフリカ

解放後も少年兵を苦しめ続ける心の傷と偏見

2018年6月25日(月)11時20分
ジャック・ロシュ

武装解除後の元少年兵をどう社会復帰させるかも大きな課題だ Finbarr O'reilly-REUTERS

<民兵組織によって内戦に駆り出された子供たち――武装解除後も腐敗や偏見が彼らへの支援を阻む>

5年前、11歳のハッサン(仮名)は中央アフリカ共和国中部の町カガ・バンドロの自宅付近で父親を民兵に殺された。悲しみに暮れ怒りに燃える少数派イスラム系住民の少年は、公正な法の裁きなど信じることができなかった。彼が信じたものはただ一つ――カラシニコフ(AK47自動小銃)だ。

ハッサンはイスラム教徒主導の反政府勢力セレカに加わった。セレカは13年に国の大部分を制圧、これにキリスト教系民兵組織「反バラカ」が報復し、中央アフリカは内戦状態に陥った。

ハッサンの初仕事はテロ実行部隊の指揮官の護衛だった。3カ月後には補佐官に昇進、子供10人を含む50人の部下を率いることになった。「最初は怖かった」と、ハッサンは言う。「でもじきに怖いと思わなくなった。銃を持つことに慣れた」

少年兵の調達役も任され、ささやかな見返りを受け取ることもあった。「仕事は好きだった。特別な休暇にはたばことカネをもらった」

だが内戦激化に伴い、物資は不足し、敵も味方も死者数が増加。夜はたいてい林の中で眠った。護衛の際は自分の命令に逆らった民間人を撃った。「血をたくさん見た」と、ハッサンは言う。「町を襲った後は満足だった。でもすぐに敵が戻ってくるかもしれないと気付いて怖くなった」

流血は今も続く。内戦は16年前半に一時小康状態になったが、後半から再び激化。イスラム系の反政府勢力は分裂して、鉱物資源と貿易ルートの争奪戦を繰り広げている。

国連主導のタスクフォースが元少年兵の社会復帰に苦戦する一方、民兵組織は少年兵を増やして戦力強化を図っている。今年3月、ウルスラ・ミュラー国連人道問題担当事務次長は「16~17年、武装集団による子供の募集・使用は50%増加した」と指摘。内戦も激化する一方だ。

武装解除も腐敗の温床に

ユニセフ(国連児童基金)によれば、数千人の子供が戦闘、調理、伝令、物資の運搬などに使われているという。「子供たちは内戦再燃の最大の犠牲者だ」と、ユニセフ西部・中部アフリカ地域事務所のマリー・ピエール・ポワリエ代表は言う。

04年以降、欧米諸国と国際機関は反乱を鎮圧し、民兵組織に戦闘員の動員解除と社会復帰への協力を促すべく、複数の武装解除プログラムに出資。武装解除に応じた戦闘員(子供も含む)に教育支援や職業訓練、雇用などを約束している。だが国連の統計によれば、14年以降に民兵組織から解放された1万2500人近い子供のうち、3分の1以上(約4500人)が今も援助を待っている。

武装解除プログラムは国連による平和構築の取り組みのカギだが、問題もある。交渉中に民兵組織の指揮官が国際NPOから支給品を奪い取ろうとしたり、戦闘員ではない子供や親戚を戦闘員と偽って見返りを得ようとするケースもあるという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中