最新記事

北朝鮮情勢

中国はなぜ金正恩訪中を速報で伝えたのか?──米中間をうまく泳ぐ金正恩

2018年6月20日(水)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

北朝鮮・金正恩氏が3度目の訪中(写真は6月19日、北京。金が乗っているとみられる車)Thomas Peter-REUTERS

これまでは北朝鮮の指導者が帰国した後に訪中を報道するのが中国の慣例だ。なぜ今回は金正恩の入国と同時に速報で伝えたのか?元中国政府高官を取材し、中国の影響力が低下することを懸念していることが分かった。

中国政府、金正恩訪中を速報で

北朝鮮の金正恩委員長の飛行機が北京空港に到着してまもなく、中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」がその事実を短文で伝えた

内容は「6月19日から20日にかけて、朝鮮労働党委員長で、朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長金正恩は中国訪問を行なう」と書かれているだけだった。

それでもこれまで、北朝鮮の指導者が訪中した時には、指導者が帰国の途につき、北朝鮮の領土領空に入ったのを確認してからでないと公開しないという原則を破ったのは注目に値する。

それも報道は19日10時16分。まだ北京入りしたばかりだ。いったい何が起きたというのだろうか?

金正恩はシンガポールに向かうのに中国の専用機を使わせてもらいながら、そのお礼に行っていない。本来ならシンガポールからの帰路に北京の上空を通るのだから、北京に立ち寄って習近平国家主席にお礼を言うのが本筋だろう。だから、いずれ行くだろうことは、推測はしていた。まさか習近平が訪朝するまで謝辞を言わないということはあるまい。それはあまりに非礼だ。習近平訪朝前に金正恩は訪中しなければならない。したがって金正恩が三度目の訪中をしたこと自体には驚かないが、そのことを中国政府が速報で伝えたことには非常に驚いた。

よほどの事情がない限り、あり得ないことだ。

中国政府元高官を取材

そこですぐに元中国政府高官と連絡し、取材をした。

以下、Qは筆者、Aは元中国政府高官である。

Q:いったい、どうしたというのですか?金正恩が訪中したようですが、なぜすぐに報道してしまったのですか?

A:そうですね、たしかに異常です。ただ、金正恩はシンガポールでの米朝首脳会談のあとに、すぐさまその足で北京を訪問して習近平にお礼を言うべきところ、「なぜそうしないのか」という疑問に対する回答でしょう。彼は中国の飛行機使用のお礼と、トランプと会って何を話したかという報告を習近平にしなければなりませんから。

Q:それは金正恩が訪中した理由でしょ?それは私も分かっています。分からないのは、なぜ慣例を破って、入国と同時に金正恩訪中を中国政府が公開してしまったのかということです。

A:なかなか答えにくい質問ですから、つい遠まわしに......。では、言いましょう。中国は正にその慣例を破ってでも、一刻も早く金正恩訪中を知らせたかったのです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中