最新記事

北朝鮮情勢

北朝鮮を狙う経済開発勢力図

2018年6月11日(月)16時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

もっとも、対北経済制裁をする遥か前から、実は北朝鮮の地下資源に関する争奪戦は始まっており、数百社に近い世界の企業が既に手を付けている。その最たる国は、なんと、イギリスだ。1840年代のアヘン戦争時代における列強のアジア進出の発端を切ったのがイギリスであったことを、ふと想起させる。国連安保理による制裁により関係各国は手を引いているが、北の非核化プロセスが明確になれば、真っ先に進出するのは、今度はアメリカかもしれない。

中朝関係を決定的に険悪化させた羅先(ラソン)開発区

中国が上記4大拠点に、これまで投資してきた羅先(ラソン)開発区を入れてないということは非常に重要だ。

羅先というのは、ロシアに隣接する「羅津(ラジン)+先鋒(ソンボン)」地域を指し、最初の一文字ずつを取ってくっつけた経済開発区を意味する。

1990年7月に吉林省長春市で開かれた国際会議で提案され、91年10月に第二の香港あるいはシンガポールを建設する方針が決定された。

トウ小平は中国の改革開放が進むにつれて、北朝鮮にも「改革開放をしろ」と迫り続けてきたが、それを受けて91年10月5日、金日成(キム・イルソン)主席は訪中しトウ小平と会って具体的に着手し始めたのが、この羅先開発区(当初は羅津・先鋒自由経済貿易地帯)である。 

2010年12月、中国による羅津港の利用が開始された。

問題は2012年8月に中国企業の共同事業体が、羅津港の第1埠頭から第3埠頭までを開発して50年間租借し、さらに第4~第6埠頭までの3基をも建設するという、羅先経済貿易地帯の事実上の接収を北朝鮮と合意したことだ。おまけに、そのときの北朝鮮側の担当者が当時の朝鮮労働党行政部長の張成沢(チャン・ソンテク)(金正恩の叔父)だったことが大きい。

2013年12月12日、張成沢は処刑されるが、その罪状の中の一つに「50年間の期限で、外国に羅先経済貿易区の土地を売った売国罪」というのがある。中国のネットではこの罪に関して北朝鮮の軍事法廷が「千古の逆賊」と断罪したことに注目して、「この"外国"って、中国だよね!」「なんと、中国は遂に売国行為の"買い方"に昇格したぞ!」などという書き込みが氾濫した。

羅津港はロシアにも50年間の使用権を提供したと言われているが、ロシアが恨まれずに中国が恨まれたのは、2015年2月25日のコラム<周永康、北朝鮮に国家機密漏えいか?――張成沢処刑は周永康が原因>にも書いたように、周永康が関係していると思われる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ

ワールド

米控訴裁、中南米4カ国からの移民の保護取り消しを支

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「AIで十分」事務職が減少...日本企業に人材採用抑制…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中