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東南アジア

インドネシア、国軍をテロ対策最前線へ 背景にはテロの変質?

2018年5月31日(木)08時55分
大塚智彦(PanAsiaNews)

国軍関与の背景にテロの変質



リアウ州警察本部を標的にしたテロ事件の現場 KOMPASTV/ YouTube

5月13日のスラバヤ3教会の自爆テロは女性や子供を含めた家族による犯行であり、事件前後にはテロ容疑者とみられる集団と警察の銃撃戦も各地で発生している。さらに5月8日に起きた機動隊本部拘置所の暴動事件は警察官6人を殺害し、さらに人質に取るという卑劣な行動が明らかになった。その後スラバヤ市警察本部でのテロ(5月14日)、リアウ州警察本部でのテロ(5月16日)と警察官、警察施設がターゲットになる事件が続いた。

これは最近のテロがキリスト教会などのいわゆるソフトターゲットを対象にするだけでなくテロ捜査に当たる「警察」を狙うという「テロの変質」が顕著になり始めたことを意味している。

こうした「テロの変質」が、これまでテロ対策に主として当たってきた国家警察の対テロ特殊部隊「デンスス88」に加えて、陸軍特殊部隊など国軍のテロ作戦への投入を後押しした大きな理由とされている。

インドネシア語主要日刊紙の「コンパス」が5月23,24日に実施した世論調査ではテロ対策への国軍の参加について国民の94%が支持を表明する結果となったという。

しかし国軍の国内治安対策への「復帰」がかつての国軍勢力の拡大に繋がるどうかに関しては「心配なし」が58%にとどまり、36%が「心配している」ことが明らかになるなど、かつてのスハルト独裁政権への回帰懸念が依然として根強いことをうかがわせる結果となった。

インドネシアは相次ぐテロで社会全体に言い知れない不安感が漂っている。5月29日の国民の祝日「ワイサック」(花祭り)は仏教徒の行事であるが、主要都市の仏教寺院では警備態勢が強化され、中部ジャワの世界遺跡「ボロブドゥール寺院」では警察官1600人が警戒に当たった。国民の88%を占めるイスラム教徒は5月17日から6月15日まで続くイスラム教の重要な行事「プアサ(断食)」の中、敬虔な祈りの日々を送っているが、同時に払拭できないテロへの不安を抱えながら断食を続けている。

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