最新記事

メディア

政権を忖度? 主要日刊紙が編集長を突然解雇 マスコミ受難続くカンボジア

2018年5月18日(金)18時04分
大塚智彦(PanAsiaNews)

カンボジアを代表する日刊紙で政権批判で知られた「プノンペン・ポスト」のカイ・キムソン編集長が5月7日、突然解雇された。写真はオフィスを退出する同編集長。REUTERS

<独裁的な政治が強まるカンボジアでは、政権に批判的だった独立系新聞2紙が休刊や編集長解雇に見舞われる「報道の自由の危機」が起きている──>

カンボジアを代表する日刊紙の編集長が突然解雇され、それに抗議した編集幹部5人が相次いで辞任するという異例の事態が起きている。フン・セン首相率いる独裁的な政権を間接的に批判する記事を掲載したことが原因ともいわれているが、新オーナーに就任したマレーシアの投資家がフン・セン首相と近い関係にあることが要因との見方も強い。新聞社幹部は「(編集長解雇は)経営上の決定である」と政権との関係を否定している。

1992年創刊の英語とカンボジア語の主要日刊新聞「プノンペン・ポスト」紙の編集部は5月7日、深い悲しみに包まれたという。

記者の信頼が厚いベテランジャーナリストのカイ・キムソン編集長が経営陣によって突然解雇され、社を去ることになったからだ。

同社はその日、オーストラリア人のオーナーからマレーシア人のシバクマール氏に売却され、同氏が新オーナーに就任した。同氏はマレーシアで広告会社を経営し、その顧客名簿にはフン・セン首相の名前があり、政権とのつながりを示唆している。新オーナーは「会社にダメージを与えるような記事は削除するように」とスタッフに命じたものの、どの記事が該当するかは公にしなかった。

編集権への経営陣の介入

こうしたオーナーの変更に伴った編集権への露骨な介入に対し、「このままでは編集の独立が維持できない」との危機感が社内で一気に高まった。

こうした中で、カイ編集長が突然解雇されたのだ。カイ編集長は昨年9月にクメールポスト紙からプノンペン・ポスト紙の編集長に就任していた。

7日に社員を集めた会議で新オーナー側の弁護士は「今日からは新編集長の下で仕事をしてもらう。そして全ての記事は新編集長の承認を得ることが必要となる」と告げたという。新オーナー側は「カイ編集長の紙面では赤字が出た。さらに新聞社としての名誉を傷つける記事も出た。今後の紙面は反政府でも親政府でもない中立の立場で作っていく。カイ編集長の解雇はあくまで経営上の決定である」と説明。だが、問題となった名誉を傷つけた記事とは何かなど、詳細は明示しなかったという。

一方解雇されたカイ編集長は「弁護士からは大きなミスをしたので解雇すると告げられた」と説明が食い違っていると主張。「ジャーナリズムの仕事は真実を伝えることだが、新オーナー側は真実を受け入れようとしない」と話して社を去ったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中