最新記事

人道問題

米朝首脳会談を控えた金正恩からのプレゼント? 拘束米国人解放の光と影

2018年5月11日(金)23時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


ひたすら待つだけの高麗ホテル

平壌空港に到着した一行は、中心部にある高麗ホテルに移動した。ポンペオら政府関係者は38階に案内されて北朝鮮側と交渉に入ったが、モレノ記者らはロビーでそれから10時間ひたすら待つことになった。携帯電話はもちろんネットもつながらないため、警備員に同行してもらいホテルの周辺を見物するなどして時間を潰すしかない。

ホテルに戻ると国務省の高官が何度かやってきて交渉の様子を伝えてくれた。夕方4時からポンペオと金正恩が会談することも教えてくれたが、同行はできないという。結局取材らしいことは何一つできないまま、ホテルのロビーでぼうっとするだけで1日が暮れようとしていたときにポンペオが戻ってきた。何かいい知らせがないかと顔を見ると、ただ笑いながら指で十字を作って幸運を祈って見せたという。

ところがその15分後、国務省の高官が突然の知らせをもってきた。拘束米国人3人が解放されるという。北朝鮮当局者数人がホテルにポンペオを訪ねてきて「非常に難しい判断だが、3人の米国人拘束者について"赦免する"ことを許す」と話したという。釈放されるのは7時ということで医師たちは他のホテルに移動し、他の者は空港へ移動することになった。

だが、2人の記者は平壌で解放の瞬間を取材することはできなかった。空港で解放された3人を待ち構えていたが、「何も話しかけてはいけない」「彼らをそばで見ることも禁止」と言われたからだ。「解放される3人のプライバシーが侵害されないため」とポンペオが言ったのが理由とされるが、何か北朝鮮側を刺激するような発言が飛び出して、最後のところですべてが御破算になることを恐れたのかもしれない。

解放された3人は機内に乗り込んでからも記者たちからは2つのカーテンを挟んだ離れた座席にいて、取材どころか近づくこともできないようにされていた。専用機は日本の横田基地とアラスカの基地で給油をしたが、横田に着いたところで開放された3人は別の専用機に乗り換えてしまった。

結局アンドリュース空軍基地には解放された3人の乗った専用機が先に到着した。皮肉にも北朝鮮に同行したモレノ記者は、トランプが3人を歓迎する姿と、それを取材する各国メディアの様子を200メートルほど離れたところから見守ることとなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送米、民間人保護計画ないラファ侵攻支持できず 国

ビジネス

米財務省、中長期債の四半期入札規模を当面据え置き

ビジネス

FRB、バランスシート縮小ペース減速へ 国債月間最

ビジネス

クアルコム、4─6月業績見通しが予想超え スマホ市
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中