最新記事

人道問題

米朝首脳会談を控えた金正恩からのプレゼント? 拘束米国人解放の光と影

2018年5月11日(金)23時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


解放された3人はまだ自由ではない

今回解放されたのは、キム・ドンチョル、キム・ハクソン、キム・サンドクの韓国系アメリカ人だ。帰国して専用機を降りてきた3人はようやく自由の身になった3人は足取りもしっかりしていた。トランプたちの歓迎を受けた3人はさっそく家族の元へ......ということにはいかなかった。軍の医療センターへと移送されたからだ。関係者によると「早い段階で家族と再会すると、さらなる精神的なストレスを受ける可能性がある」というのだ。

実際、北朝鮮に拘束されて解放された人の例をみると、自由になってハッピーエンドという単純なことではないケースがある。

2010年北朝鮮に逮捕されたアイジャロン・ゴメスは中国から密入国を試みた容疑で8年間の強制労働刑を言い渡された。真っ暗な監獄で暮らしている間に自殺を図ったこともあった。2011年に解放され帰国したが、昨年カリフォルニア州サンディエゴで黒焦げの遺体で発見された。地元紙によると解放されてからも心的外傷後ストレス障害(PTSD)で悩んでいたため自殺したと言われる。2015年のインタビューで「北朝鮮にいたときよりも、帰国後に絶望感を強く感じるている」と語っていた。

2014年に北朝鮮咸鏡南道のチョンジンを旅行中に聖書を持っていたことで、キリスト教流布の疑いで逮捕されたジェフリー・パウルも、6カ月語に解放され帰国してからも苦労を味わった。彼は帰国後のインタビューで「北朝鮮にいるキリスト教徒たちのために聖書をもっていく計画を事前に立てていた」と語った。

だがこの計画を事前に伝えなかったために彼の姉は「自分が騙された」と思っていたという。その一方で彼は、収監されていたときに家族に手紙を書くことを許されていたため「故郷の新聞に掲載されるクロスワードパズルを送って欲しい」と手紙を書いたが、届くことがなかったため「自分のことを家族が見捨てた」感じがした。実際には手紙の多くが家族の元には届けられなかったという事実は帰国してからようやく気づいたという。

こうした過去の北朝鮮からの帰還者たちの事例を見ると、10日に帰国した3人が「真の自由の身」になるためにはまだまだ時間が必要なのかもしれない。

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=最高値更新、CPI受け利下げ期待高ま

ビジネス

米シスコ、5─7月期売上高見通し予想上回る AI支

ワールド

ニューカレドニアに非常事態宣言、暴動の死者4人に 

ワールド

再送-EU、ジョージアに「スパイ法案」撤回要請 「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中