最新記事

ルワンダ虐殺

ルワンダ現政権は虐殺の加害者だった──新著が明かす殺戮と繁栄の方程式

2018年5月9日(水)17時40分
米川正子(立教大学特定課題研究員、コンゴの性暴力と紛争を考える会の代表)

マッピング・レポートが発表される前の2010年8月、本報告書が「ル・モンド」紙と「ニューヨーク・タイムズ」紙にリークされ、論争を呼んだ。

ルワンダ政府は怒りをあらわにし、報告書を公表するならスーダンのダルフール地方から自国のPKO要員を撤退させると脅した。

おそらくそのRPFをなだめるためか、潘基文国連事務総長(当時)がルワンダの首都キガリに飛び、交渉したらしい。同年10月1日に最終版のマッピング・レポートが公表されたが、その後、国連安保理などで同報告書の内容は一切議論されてない。

国内の人口割合からするとルワンダは世界最大のPKO派遣国であるが、そのPKO派遣が「政争の具」として利用されたことになる。

政争の具にされたPKO

さらに異常なのは、国連を含む「国際社会」はRPFが犯した罪を認める一方で、同じ「国際社会」は何もなかったかのように振る舞い、国家元首のカガメ大統領を「すばらしいリーダー」として賞賛していることだ。一体何のために──。

そしてさらにショッキングなことも共有したい。筆者は自身の研究の関係でこの数年、世界にいるルワンダ難民に聞き取り調査をしてきたが、ある元RPFの離反者はこう述べた。

「あのジェノサイドは結局、『投資』だったんだ。」

すなわち、ジェノサイドが発生した「おかげ」で、ルワンダは「国際社会」から膨大な援助が入るようになり、世界中から研究者、ジャーナリストや観光客が入国し、投資も増え経済成長した。何百万人の犠牲という悲惨な「投資」があったからこそ、カガメ氏が世界のヒーローになった。上記のコメントはあくまでも個人見解であるが、それに同意する難民も少なくない。考えただけでぞっとする。

               *****

実は日本からも同国を視察、観光、研究、そして留学目的に訪れる人は多いものの、同国の政治やRPFが犯したジェノサイドなどについて精通している人はかなり少ないのが残念である。

ぜひ本書を手に取って、ジェノサイドの実態だけでなく、人道支援や開発援助が悪用された事実も学んでもらいたい。

来年2019年、ジェノサイド発生から25周年を迎えるルワンダ。将来、同様な罪が繰り返されないためにも、ルワンダとコンゴにおける残虐行為の歴史を改めて直面すべきなのではないだろうか。


ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

MUFG、印ノンバンクに40億ドル以上出資へ=関係

ワールド

訪日客11月は10.4%増、紅葉で好調続く 中国は

ビジネス

日経平均は反発、米雇用統計通過で安心感 AI関連も

ワールド

ブラジル中銀、金利据え置き戦略は適切と現時点で結論
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中