最新記事

中朝関係

金正恩、習近平を再び利用か──日本は漁夫の利を待て

2018年5月8日(火)18時54分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

こう言いさえすれば、お世辞に弱いトランプは自分を許してくれるだろうという、文在寅の東洋的な保身術だったにちがいない。

以来、ものの見事にそのお世辞戦略による自己弁護は成功して、トランプは北朝鮮の平昌冬季五輪参加も称賛するようになる。

日本は、このトランプの「圧力が効いたのだ」論に乗っかり金正恩を不快にさせた。

文在寅の「圧力が効いた」論を知った金正恩は、直ちに「調子に乗るな!いくら哀れな立場とはいえ、対話の相手を前にして無礼千万!」と、文在寅を非難した。1月14日の北朝鮮の国営テレビが声を張り上げて、非難文を読み上げた。

今もまた、トランプは米朝首脳会談を前に「圧力」を口にしているので、金正恩は兄貴分の習近平に泣きつきに行ったことは、十分にあり得る。 ただし、今回は、空母の進水式典に北朝鮮の高官も参加する、という可能性は、今の段階では否定できない。

日本は漁夫の利を静観すべき

5月7日付のコラム<中国、対日微笑外交の裏――中国は早くから北の「中国外し」を知っていた>に書いたように、中国は十分に北朝鮮の「狡猾さ」を知っている。その上で、狐と狸の化かし合いをしながら付き合っているのが現状だ。

 何れの場合でも、日本は中朝関係の真相だけを直視して、表面上の言動には一喜一憂しない方がいいだろう。また、「圧力だ、圧力だ」と合唱しても、漁夫の利は得にくくなる。むしろ「老獪な戦術」を立て、静かに待っている方が賢い方法ではないだろうか。その方が明日の日中韓首脳会談にも有利に働く。

追記:5月8日19:00(日本時間20:00)、中国の中央テレビ局CCTVは、訪問したのが金正恩であることを発表した。会談は5月7日から8日にかけて行なわれたとのこと。中国外交部は本日17:48(日本時間18:48)の時点で「発表すべき如何なる情報もない」と厳しい顔で言っていた。したがって日本時間20:00の時点では、金正恩はすでに中朝国境を越えて帰国の途に着いていたことになる。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏貿易黒字、2月は前月の2倍に拡大 輸出が回

ビジネス

UBS、主要2部門の四半期純金利収入見通し引き上げ

ビジネス

英賃金上昇率の鈍化続く、12─2月は前年比6.0%

ビジネス

日産、EV生産にギガキャスト27年度導入 銅不要モ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 7

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中