最新記事

北朝鮮経済

「厳しいがまだ破綻しない」北朝鮮経済を読み解く

2018年5月5日(土)14時40分
ベンジャミン・カッツェフ・シルバースタイン(米シンクタンク「外交政策研究所」研究員、「ノースコリアンエコノミーウォッチ」共同編集人)

首都・平壌の上流層向け百貨店。時代遅れの品揃えだが庶民には高嶺の花だ(写真は13年) Jonas Gratzer-Lightrocket/GETTY IMAGES

<最高人民会議の予算・決算報告が語る実態、国際的圧力で状況は厳しさを増しているが......>

北朝鮮では4月11日、国会に相当する最高人民会議で17年決算と18年予算の報告が行われた。この報告書は、北朝鮮経済の実情を探る貴重な資料だ。

ただし、北朝鮮の公式発表に付き物の注意事項がある。数字が正確である保証はなく、せいぜい大ざっぱな概要程度の信頼性しかない。政治宣伝と本物の情報の区別も曖昧だ。それを踏まえた上で、目に付いた点をいくつか挙げてみよう。

■経済成長
ウィーン大学の北朝鮮専門家ルーディガー・フランクは、国家予算の歳入の伸びは経済全体の成長を映す鏡のようなものだと指摘する。この見解が正しいとすれば、17年の歳入増、つまり経済成長は前年比4.9%で、ここ数年の平均よりかなり低い。

経済が失速した理由はいくつか考えられるが、輸出が昨秋の初めから目に見えて落ち込んでいることから、中国の制裁実施が影響したとみられる。

18年の歳入予測は3.2%増で、さらに低い。現在の北朝鮮の苦境を考えれば、それでも楽観的な数字かもしれない。

■民間部門
北朝鮮が公式発表で「私的な」経済活動をはっきりと認めることはないが、市場化の試みに言及する例は増えている。フランクによれば、予算項目のうち地方からの税収のほとんどは、中央計画経済の外にある経済活動に対応しているという。この解釈が正しければ、経済全体の生産活動に占める比率は26.1%。実際は50%を超えるという見方もある。

いずれにせよ、この報告書は「計画外経済」の重要性を認識している。「地方では引き続き歳出を自前の歳入で賄い、中央政府の予算に多大な貢献を果たすと見込まれる」

■税収増
18年予算は、民間または半民間の企業体からの税収が今年も増えると予測している。社会保険料と不動産賃貸料は、それぞれ1.2%と1.8%増。取引税の税収は2.5%の増加が見込まれている。

社会保険料は基本的に、働けない人々や高齢者などの生活扶助のために「社会主義の機関や工場」と労働者の両方から徴収する一種の税金だ。不動産使用料は、政府が資産(建物や道路など)の質と水準を維持するために「社会主義の機関や工場」から徴収すると説明されている。

つまり、これは企業への総合課税のようなものらしい。取引税も企業活動への総合課税の一種と思われる。

こうした税徴収の仕組みが国家財政に組み込まれているという事実は、北朝鮮がスターリン主義の経済モデルから大きく乖離していることを示すものだ。完全な計画経済の下では、そもそもこの種の税金を徴収する必要がない。全ての生産活動は中央政府の計画どおりに行われ、その成果物は全て政府の手で徴収され、分配される。

税金が必要なのは、政府の統制の外に経済活動が存在するからだ。北朝鮮ではそれが経済全体の50%、あるいはそれ以上を占めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中