最新記事

北朝鮮

国境の川から北朝鮮を逃げ出した脱北者たち それぞれの事情

2018年5月2日(水)11時02分


チョンさんと軍服

チョン・ミンウさん(29)は、中国国境に近い恵山(ヘサン)の出身。北朝鮮人民軍の元将校で、軍服姿で北朝鮮を脱出した。韓国の情報当局がその軍服を没収したが、知り合いの北朝鮮軍筋に頼んで、新しいものを送ってもらったという。

「韓国に到着したのは2013年11月22日。自分の部隊から脱走したわけではない。カネを稼ぐために来た。国境警備兵には、出国すると話した。われわれは軍人同士なので、それで済んだ。

タイまでたどり着いたところで、友人に衣服を借りて、軍服は念のためバッグにしまっておいた。もし北朝鮮に戻ることがあれば、必要になるからだ。北朝鮮では、軍服と身分証は貴重な財産だ。軍は、何でもできる。

私が元々着てきた軍服は、韓国の情報当局に渡した。これも本物だが、韓国に密輸したものだ。

これは、綿でできた夏服。脱北者が経験を語るテレビ番組『いま会いに行きます』に出演した時に着た。こうした軍服は、北朝鮮の市場では売っていない。私はいまも北朝鮮の軍当局者とやり取りがあるので、2014年に頼んで送ってもらった。

費用はすべて自分で払った。川を越えて中国側に荷物を届ける料金や、中国から韓国までの送料もだ。総額数百ドルかかった。

私の軍服は支給品だったが、自分で作る軍人もいる。約4万北朝鮮ウォン(非公式レートで5ドル)ぐらいで、仕立てたり、直してくれたりする仕立て屋がいる。

本来、軍服は売ってはいけないものだ。軍備品は、裏で取引される。軍人は、よりかっこいい軍服を着るために、買ったり直したりするのだ。

北朝鮮では、非番の日でも毎日軍服を着ていた。普通の服は着れなかった。もし着たら、車に乗れない。私からタバコを盗もうとしたり、ケンカをしかけてきたりする人がいるかもしれなかった。

もし北に戻ったなら、車に乗ったり他人から盗んだりするために、あの制服が必要になる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中