最新記事

北朝鮮情勢

中国、北朝鮮を「中国式改革開放」へ誘導──「核凍結」の裏で

2018年4月23日(月)15時10分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

今般の金正恩の核凍結および弾道ミサイル発射中止は、まさに中国の長年にわたる要求が実現したものと、中国は位置付けている。

「中国式の改革開放」に焦点

ここで重要なのは、中国は金正恩が総会で「強力な社会主義経済を建設して、人民の生活レベルを画期的に向上させる闘いに全力を注ぐ。経済発展のために有利となる国際環境を創り出し、朝鮮半島と世界の平和のために、(北)朝鮮は周辺の国家および国際社会と積極的に緊密な連携と対話を展開していく」と言ったことに焦点を当てていることだ。

なぜなら中国は1992年以来、北朝鮮に改革開放を求めてきたからだ。特に鄧小平は、韓国と国交を樹立させた中国に激怒して「そんな裏切り行為をするのなら、中華民国(台湾)と国交を樹立してやる!」と怒鳴った金日成(キム・イルソン)に対して、「改革開放をしろ!」と怒鳴り返している。

以来、中国が北朝鮮に「中国式の改革開放を推し進めよ」と言わなかったことはない。鄧小平以来のどの政権になっても、間断なく「中国式の改革開放」を北朝鮮に要求してきた。

金正恩政権は2013年から経済建設と核戦力建設の並進路線を唱えてきたが、今や核戦力の建設は終えたと勝利宣言している。ようやく経済建設に全力を注ぐ状況になったにちがいない。今後の北朝鮮はまさに「中国式の改革開放」満開といったところだろう。

一党支配体制維持のために「紅い団結」を強化

「中国式の改革開放」とは何かというと、一党支配体制を維持したままの改革開放で、これを「特色ある社会主義思想」と称する。

習近平は昨年10月に開催された第19回党大会で、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」を党規約に記入した。4月12日付のコラム<北朝鮮、中朝共同戦線で戦う――「紅い団結」が必要なのは誰か?>に書いたように、中朝両国は今後、この「紅い団結」を強化していくというのが、基本路線である。習近平にとっては、この党規約に書き込んだ「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」が如何に正しく強大であるかを中国人民に知らしめたい。

折しも関西大学の李英和(リ・ヨンファ)教授から知らせがあった。

4月23日の北朝鮮の労働新聞は「経済建設総力戦」の一色だったという。

中朝双方からの情報が一致するので、北朝鮮はきっと「紅い団結」に基づいた「中国式の改革開放路線」を全開にしていくことだろう。今般の金正恩の動きの背後には習近平がいたことが、このことからも窺い知ることが出来る。

なお、中国政府関係者は今もなお、北朝鮮の核放棄に関して、必ずしも完全に信頼しているわけではないと、筆者に吐露した。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは146円後半へ上昇、トランプ関税で

ビジネス

アングル:超長期金利再び不安定化、海外勢が参院選注

ワールド

日米韓が合同訓練、B52爆撃機参加 3カ国制服組ト

ビジネス

上海の規制当局、ステーブルコイン巡る戦略的対応検討
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 10
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中