最新記事

イラク

「ISIS憎し」のイラク政府が即決裁判で大量死刑宣告

2018年4月10日(火)16時50分
デービッド・ブレナン

昨年6月、モスルで奪ったISISの旗を掲げるイラク軍兵士 Alkis Konstantinidis-REUTERS

<テロ組織に少しでも関わればコックも医師も死刑に――執行も迅速化させるイラクに懸念の声が高まる>

4年以上にわたるテロとの戦いで、拘束者が増え続けているイラク。何千人もの被告を裁くため司法の負担が膨れ上がるのに伴い、人数を減らす試みも進んでいる――処刑だ。

イラクは13年以降、テロ組織ISIS(自称イスラム国)やその他の過激派組織とつながりがあるなどとして、3130人の拘束者に死刑判決を下した。18年1月までのイラク全土の収監者2万7849人の集計を基にしたAP通信の分析によると、少なくとも1万9000人がテロ関連容疑で拘束されているという(集計データは匿名の政府関係者から入手)。

死刑判決を受けた者の中には、ISIS指導者アブ・バクル・アル・バグダディの姉妹や外国人戦闘員らも含まれる。

これらの拘束者のうち8861人はテロ関連の罪で、イラク情報機関関係者によればその大多数がISIS関係者。残りの1万1000人は、現在取り調べ中か裁判待ちの状態だ。

国際人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、イラクが反テロ法を過剰に適用しているせいで、筋金入りの戦闘員だけでなくISISとの関係性が限りなく薄い人々まで拘束している可能性があると懸念する。

「政府高官の誰一人、アバディ首相でさえ、拘束者の総数を把握していないようだ」と、同団体イラク担当上級研究員のベルキス・ウィリーは言う。

それどころかアバディは、判決後の死刑執行を加速するよう指示している。14年以降で250人が絞首刑に処され、うち100人は17年に執行。迅速化の意思を見せつけている。これに対し国連は、冤罪のリスクが増えると警告する。

死刑判決は、テロ実行犯だけでなく、テロ組織の一員だったりテロ組織を支援したりした者にも下されている。中には専属コックやISIS運営の病院で働いていた者なども含まれる。

「司法当局はISIS統治下で人の命を救っていた医者の過失責任と、人道に対する罪を犯した者とを区別できていない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東責任者サラ・リア・ウィットソンは言う。

収容施設が過激派拠点に

こうした指摘に対し政府広報官は、「全ての犯罪者とテロリストに徹底して公正な刑罰を科している」と主張する。だが膨れ上がる拘束者に政府は時間も同情もかける様子はなく、30分未満の即決裁判で死刑判決が下されているケースもある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

パウエル氏利下げ拒否なら理事会が主導権を、トランプ

ビジネス

米雇用、7月+7.3万人で予想下回る 前月は大幅下

ビジネス

訂正-ダイムラー・トラック、米関税で数億ユーロの損

ビジネス

トランプ政権、肥満治療薬を試験的に公的医療保険の対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中