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トランプに「ノー」と言えない安倍首相 森友問題の火消しに外交は有効か?

2018年3月27日(火)09時29分
ダニエル・スナイダー(スタンフォード大学教授)※東洋経済オンラインより転載

だが、日本政府がこれを喜ぶのは時期尚早だ。タカ派は同盟の意義についても非常に批判的であり、先制的自衛のための武力行使を支持している。北朝鮮との会談が開催さえされず頓挫することがあれば、それにより外交的な出口が失われ、戦争の瀬戸際まで再び後退するという危険があることを、多くの米国のアナリストたちは懸念している。

安倍政権は、トランプ大統領が北朝鮮に拉致された日本人の返還に関してなんらかの主張をできる状態にしようと躍起になっている。だが、米国の政策決定者たちはこれが日本にとって重要な問題だと認識しているものの、これが日米首脳会談の議題に上がることはなさそうだ。

米国と中東、中国との関係も日本に影響

米国と中東との関係も、日本は気にかけている。ボルトン氏とポンペオ氏は長年にわたり、イランの核に関する合意に反対の立場だからだ。イランとのあからさまな衝突へと舵を切るということは、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相や、彼の義理の息子であるジャレッド・クシュナーを通じてトランプ大統領との緊密な関係を維持しているサウジアラビアの王政の支持するところだろう。

しかし、米国がイランとあからさまな対立関係となることを、日本は長らく反対してきた。イランとカタールを含む、この地域からの原油や天然ガスは日本にとって重要だが、この両国はサウジアラビアの標的となっている。

また、米国と中国との間で緊張が生じれば、日本にとっては同様の諸刃の剣となる。安倍政権は、一方では中国との緊張関係の悪化と最近の台湾との関係の改善が、自らの考え方と一致し、これらを歓迎するかもしれない。だが、産業界を中心に中国との全面的な貿易戦争の開始を望んでいるものはいない。

こうしたいくつものジレンマが、安倍首相と外務省が両面作戦を取る理由だ。平和条約の締結への道を進めるという望みをもって、ロシアとの関係改善へ向けた取り組みを続けているのも、この戦略の一端である。

同様に、中国が長らく延期されている三カ国首脳会談の開催への反対姿勢を翻したことが示すように中国政府とのつながりもわずかながら改善している。金正恩委員長と安倍首相の会談の可能性は、究極のリスクヘッジだろうが、トランプ大統領との会談が開催されないかぎり現実へ向けた進展はありそうにない。

だが、究極的には、日本政府が米政府に対してノーと言う余裕がないとはいえ、貿易とイランに関しては一定のラインを引く可能性がある。そして、日本および米国が抱える問題が少しずつ解決していけば、安倍首相の存在感は弱まるかもしれない。ただしそうなった場合、日本に政局不安が訪れることは間違いない。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
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