最新記事

メディア

動き出す放送法改正 安倍首相は改憲に向け「政治的公平」撤廃狙う?

2018年3月26日(月)16時12分


権力の介入危惧

この問題を国会でも取り上げた奥野総一郎衆院議員(希望の党)は、放送法の規制レベルをネットに合わせたときの問題点について「ネットに合わせて規制を比較的自由にしたときに、権力が放送内容に対して口出ししてくることも考えられる」と指摘した。

現在は放送法3条で放送内容に対する外部の介入を禁じている。

一足先に政治的公平規制「フェアネス・ドクトリン」が撤廃された米国では、トランプ大統領が一部の放送局を「フェイクだ」と攻撃。メディアの政治色の偏りなどを背景に、社会の分断が強まっている。

ペンシルベニア大学アネンバーグ・コミュニケーション・スクールのビクター・ピッカード准教授は、米国の状況について「政治的なバランスや公益を守ることを約束させるセーフガードがなくなって、メディアはより市場原理に影響されやすくなり、結果として極端な議論、センセーショナリズムに支配されてしまった」と指摘。「米国の経験を教訓として、日本は警戒感を持つべきだ」と忠告した。

元NHKプロデューサーで武蔵大学の永田浩三教授も「戦争中、放送が旗振り役を担ったという歴史がある。放送法は国民の表現の自由を最大限生かしながら健全な民主主義の発達を支えるもので、その歴史の流れを無視して4条だけをいじるのは全体を見ない議論だ」と批判した。

安倍首相のけん制か

複数の関係者の間では、今回の改革方針は、憲法改正をテレビに邪魔されないための安倍首相のけん制ではないかとの観測も出ている。テレビ局は国から電波の割り当てを受け、放送事業を営んでいる。認可を取り消されると放送事業を継続できなくなるため、そうした事態を連想させることで、テレビ局をけん制しようという見立てだ。

これに対して改革推進派は「改革はあくまで通信と放送の融合とコンテンツ産業の強化が目的で、政治的なものではない」(政府関係者)と指摘。

「電波の有効活用ということでこの議論をはじめたのは確かだが、放送から電波を取り上げようとは誰も言っていない。将来像についても、すでにそのレールが敷かれているわけではない」と強調している。

昨年、規制改革推進会議は電波の利用権を競争入札にかける「電波オークション」導入を議論したが、「検討継続」となり、事実上、結論が先送りされた過去がある。政府内の温度差が大きい中で、どこまで改革に踏み込めるかはまだ不透明だ。

(志田義寧 取材協力:安藤律子 編集:田巻一彦)

[東京 26日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中