最新記事

化学兵器

兵器級神経剤「ノビチョク」には解毒剤がない──ロシア人開発者

2018年3月22日(木)19時40分
ブレンダン・コール

元スパイと娘の暗殺未遂の舞台となった英ソールズベリーで厳重な防護服を着た兵士たち Peter Nicholls-REUTERS

<イギリス南部でロシアの二重スパイとその娘が襲撃され意識不明に陥っている事件で、犯行に使われた神経剤の開発に関与したロシア人は、2人は死ぬ運命だという>

イギリス南西部ソールズベリーでロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリと娘のユリアが意識不明で発見された事件で、襲撃に使われたとされる神経剤「ノビチョク」の開発に関わったロシア人科学者が証言した。ノビチョクに解毒剤はないので、生命維持装置を外せば2人は死ぬ、と。

ウラジーミル・ウグレフはかつて、化学兵器の研究や技術開発を目的にした旧ソ連の国立科学研究所で働いていた。1972~1988年には、ロシア南西部サラトフ州の町ボルスクで行われたノビチョクの開発に参加した。

webw180322-novi02.jpg
神経剤ノビチョクの開発に関与したロシア人科学者ウラジーミル・ウグレフ VLADIMIR UGLEV

ウグレフによれば、ノビチョクは4種類の神経剤の総称だ。そのうち彼が開発したのはB-1976とC-1976の2種類。4ケタの数字は完成した年を表している。残りのA-1972とD-1980を開発したのは、旧ソ連の国防省が命じたと言われる第4世代の化学兵器開発計画を主導したロシア人科学者、ピョートル・キルピチェフだった。

D-1980は粉末状、残る3種類は液体で数キロ分を製造し、密封した状態で特殊な倉庫に保存していたという。

ロシアのニュースサイト「ザ・ベル」の取材に応えたウグレフは、スクリパリを暗殺しようとした犯人は、ノビチョクをコットン球に含ませるか粉末の状態で、犯行現場に持ち込んだのだろうと語った。

ノビチョクはどこからきたのか

「もしスクリパリと娘の襲撃に致死量のB-1976、C-1976、またはD-1980が使われたなら、過去に毒殺された被害者と同じ運命をたどる可能性が極めて高い。ノビチョクに解毒剤はない。もし生命維持装置を外せば2人は死ぬ。今も機械に生かされているだけだと思う」

彼が研究所を去った1994年の時点ではノビチョクを、2種類の毒性のない物質を混ぜて毒性にする「バイナリー兵器」にすることはできなかったという。

テリーザ・メイ英首相は今回の事件について、ロシア政府が関与した可能性が「極めて高い」と言った。スクリパリはロシア軍情報部門の元大佐でありながら、欧州で活動するロシアのスパイの情報を英情報機関に流した二重スパイだった。

ロシア政府は事件への一切の関与を否定。使われた神経剤をノビチョクと特定できるくらいなら、イギリス側がそれを保有していたに違いない、と反発した。

ノビチョクの製造方法を知る人はロシア国内に数十人いるし、情報があればイギリス人だって作れただろうとウグレフは言う。「イギリス人化学者はドイツ人と同じくらい優秀だから、1つヒントがありさえすればロシアの最高機密も製造できる」

「その場合、誰がイギリスにノビチョクの情報を渡したのか、ロシアで機密情報を守る任務にあたっている者に聞くべきだ。そもそも、機密情報の漏洩を完全に防ぐことなど可能なのか、と」

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フィッチ、インドネシア格付け見通し引き下げ 「ネガ

ワールド

中国政協開幕、軍トップ張氏ら政治局員2人が姿見せず

ビジネス

インタビュー:原子力事業の売上高、来年度に4000

ワールド

アングル:米とイスラエル、イラン攻撃で目標にずれ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 6
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中