最新記事

中国共産党

世界が習近平の中国をあきらめる時

2018年3月16日(金)16時30分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

2期目を迎えた習は権力強化に乗り出している Mikail Svetlov/GETTY IMAGES

<習近平が「終身皇帝」の実現に王手をかけたことで、経済発展による民主化を信じた人々に失望が広がっている>

その発表は淡々と、かつ事務的に行われたが、重大な影響を及ぼす可能性を秘めていた。2月25日、中国共産党は国家主席の任期を撤廃するための憲法改正を提案した(改正案は3月5日に開幕した全国人民代表大会での審議を経て、正式に可決された)。

改正案の発表は多くの人々が以前から懸念していたことを裏付けているように思える。それは、習近平(シー・チンピン)が生涯、中国の国家主席の座にとどまる可能性だ。

発表自体は意外ではなかったが、発表の時期は大方の予想よりはるかに早かった。習は国家主席のほかに共産党総書記と人民解放軍最高司令官も兼任している。国家主席の任期は事実上、他の2つのポストの任期も制約する。

13年3月の国家主席就任以来、習は腐敗と闘ってきた。この闘いは習と彼の盟友たちにとって、党指導部と大手国有企業に対するコントロールを強化することにほかならない。中国政界における個人間の競争と政治課題の違いは外からは非常に分かりにくい。そのため、中国の腐敗の根深さを考えれば、習の闘いは続いていると、多くの人々は考えていた。

現行憲法の規定では国家主席の任期は最長で2期10年。その撤廃が決定すれば、中国に、そして世界に、多大な影響を及ぼしかねない。

中国国内では安定した権力交代の仕組みが損なわれるだろう。中国の経済改革の父である鄧小平が1982年に現行憲法を制定してその仕組みを作るまで、中国は文化大革命の混乱と痛みにまみれていた。文化大革命時代は毛沢東が「人々の生死に絶対的な力を持っていた」と、中国の政治評論家である莫之許(モー・チーシュイ)は指摘する。

毛以後、鄧とその後継者たちは中国を孤立した貧困国から世界第2位の大国に変貌させた。いずれ影響力でも経済力でもアメリカを上回るのは必至という見方が大勢を占めている。

しかし中国がこうした変貌を遂げてきたのは比較的安定した時期であり、政権移行は秩序ある予測可能なものと見なされるようになっていた。鄧の後継者である江沢民(チアン・ツォーミン)は胡錦濤(フー・チンタオ)に権力を譲り、胡はその10年後に党を習に委ねた。だが習も同じように2期10年で後任に道を譲るかどうかは、怪しくなっている。

確実なのは、習が自国の影響力を拡大し、自分の理想とする政府が民主主義・自由市場のモデルに代わり得るものだと世界に示したがっていることだ。アメリカが抵抗しているにもかかわらず、習は南シナ海と東シナ海の実効支配強化を一向にやめようとしない。途上国でのインフラ建設を推進し、それを餌に中国の影響力を南と西へ拡大し、パキスタンにまで及んでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中