最新記事

フィリピン

ドゥテルテ大統領、超法規的殺人に関する捜査に「協力するな」と指示

2018年3月7日(水)15時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

マニラの大統領宮殿前で死んだふりをして超法規的殺人に抗議する市民  Romeo Ranoco-REUTERS

<大量殺人の共謀の疑いでICCに告発されたフィリピンのドゥテルテ大統領、容疑を全面否定、徹底抗戦の構え>

フィリピンのドゥテルテ大統領が推進している麻薬犯罪関連容疑者に対する超法規的殺人の政策が「人権侵害や大量殺人の疑いがある」として国際機関による捜査が始められたことを受けて、ドゥテルテ大統領が警察官や兵士に対し「一切捜査に協力するな」と指示したことが明らかになった。

3月1日に出身地のミンダナオ島ダバオで警察のエリート部隊を前にして演説したドゥテルテ大統領は「国際組織の捜査官による捜査で人権の話になったりした場合、捜査官がどこの誰であれ、私の命令は答えるな、関わるなである」と述べて、捜査への非協力、捜査拒否を「命令」した。

これは2017年4月にフィリピン人弁護士のジュード・サビオ氏が麻薬関連犯罪容疑者に対するフィリピン警察などによる現場での殺害、いわゆる超法規的殺人は人権侵害や大量殺人の疑いがある、として国際刑事裁判所(ICC)に告発したことを契機としている。

ICCは集団殺害や人道に対する犯罪、戦争犯罪などの重大犯罪に関し、責任ある個人を訴追、処罰する目的でオランダのハーグに本部を置く国際機関。現在フィリピンを含めた124カ国が加盟している。

ICCの予備捜査、2月に開始

ICCは告発を受けて2018年2月に予備捜査を開始。2月8日にICC検察局から「予備捜査開始」の連絡を受けたフィリピン政府のロケ報道官は記者団に対し、「人道に対する罪を犯したとして非難されることにドゥテルテ大統領は辟易としている。このため今回の予備捜査も歓迎する」と述べ、当初は捜査を通じて政府の麻薬対策の正当性や反論を主張する「好機」ととらえていた。

ところが、3月2日の演説でドゥテルテ大統領は「私がフィリピンで進めている(麻薬対策の)政策に一体誰が干渉しようとしているのか。フィリピンは麻薬の飲み込まれようとしている現実がある」などとして予備捜査で事情聴取などが予定される「警察官や兵士」に捜査に協力しないよう「命令」したのだ。

「捜査歓迎」の姿勢が一転

これはドゥテルテ政権のICCの捜査に対する方針が180度転換したことを意味する。

ドゥテルテ大統領は2016年6月の大統領就任以来、深刻な麻薬犯罪の増加に対する強力な対策として、警察や軍による麻薬関連犯罪の捜査で、「抵抗した場合などは現場での射殺も辞さない強い姿勢で臨み、麻薬犯罪の根絶を目指す」との方針を掲げてきた。

しかし、この超法規的殺人が捜査現場で拡大解釈されたり、不法に適用されたり、容疑や証拠が不十分なケースでの射殺が相次いでいる、と人権団体などは指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中