最新記事

フィリピン

ドゥテルテ大統領、超法規的殺人に関する捜査に「協力するな」と指示

2018年3月7日(水)15時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

国際的人権団体の「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると政権発足以来これまでに超法規殺人で殺害されたフィリピン人は1万2000人に上るという。

これに対しフィリピン政府は「約3900人」という数字を発表している。この約3900人という数字はあくまで捜査の現場で抵抗したり逃亡しようとしたりして警察官や兵士に射殺された麻薬容疑者だが、人権団体などによると、これ以外に正体不明の殺人者によって殺害された容疑者が多数いるとみられる。

多くのケースで捜査機関は証拠をねつ造し、偽の捜査報告書を作成し、現場では麻薬使用者、麻薬ディーラーと見なさされた人物への問答無用の「処刑」が続いていると指摘している。

こうした指摘に対しドゥテルテ大統領は「人権団体などの主張には証拠がない」、「警察には正当防衛、逃亡、抵抗などの理由でしか射殺を指示していない」と全面的に否定する姿勢を貫いてきた。

戸別訪問の捜査方式が射殺を助長か

フィリピン警察、捜査機関による麻薬捜査は「オプラン・トクハン」と呼ばれる捜査手法で行われるケースが多い。これは伝統的な捜査方式で警察官が1軒ずつ自宅や店舗を訪問して事情聴取や家宅捜査を実施するもの。「トク」はドアを「トクトク」とノックする音、「ハン」は「尋ねる」。ドゥテルテ大統領がダバオ市長時代に始めた捜査手法という。

この「オプラン・トクハン」で訪問捜査中、抵抗もしないのに射殺されたり、捜査官が持ち込んだ麻薬を「証拠」としてでっちあげられたり、という事例が増加。今や「トクハン」は警察官に射殺されたことを示す言葉として恐れられるようになっているという。

ICCと全面対決、脱退も示唆

ICCへの告発では、ドゥテルテ大統領はこうした日常的な超法規的殺人の「共謀者」とされ、予備捜査の結果「訴追」された場合は、ドゥテルテ大統領に対する逮捕状が発行される可能性もあるという。

これに対しドゥテルテ大統領は、ICCからの脱退も示唆するなど、「抵抗」で「全面対決」する姿勢を強めている。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 10
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中