最新記事

科学技術大国 中国の野心

【次世代加速器】中国が科学技術を制したら世界はどうなるか

2018年1月23日(火)18時03分
ヤンヤン・チョン(素粒子物理学者)

科学的に見れば胸が躍る将来像だが、中国の計画には違った面から問いを投げ掛ける必要がある。多くの物理学者が懸念を抱きつつも退けてきた疑問、すなわち政治をめぐる疑問だ。

国際協力と国家にとらわれない精神、科学分野の仲間意識の縮図──それが加速器による実験という場だ。そうした価値観が、外国の知識やアイデアへの敵意を国内で醸成し、科学を国家の威信を高めるツールと見なす独裁的国家の在り方と両立するのか。

現在、世界にある巨大加速器はどれも自由な民主主義国に存在する。中国の科学者が次世代加速器の建設を初めて提案したのは、ヒッグス粒子が発見され、習近平(シー・チンピン)が共産党総書記として国の実権を握った12年のこと。中国に誕生する巨大加速器は習が掲げるスローガン「中国の夢」を体現するもので、この国が1世代の間に科学の一分野で大国として台頭する格好のチャンスになる。素粒子物理学の研究が従来の枠を超えた地域に拡大するのは喜ばしい。だが中国がこの分野で優位を占めれば、長期的に見て素粒子物理学の本質、つまり国際的な取り組みという位置付けが損なわれかねない。

中国の計画をめぐる第一の問題は、独裁国家が国家の威信という偏狭な概念を有すること。それは多数の研究者と資金が必要な「ビッグサイエンス」という国際的な研究形態と対極にある。あの中国科学院の幹部は筆者に、中国の巨大加速器では、LHCでみられるレベルの国際協力体制は実現しないと明言した。

中国の加速器の建設・稼働にかかるコストの7割は中国側が負担する。従って、当然のことながら中国がリーダーシップを独占しようとするだろう。では、プロジェクトのリーダー役となる中国人たちが究極的に仕える相手は誰か。答えは明らかだ。

From Foreign Policy Magazine

※他に、AI(人工知能)や「絶対に解読されない」量子暗号などの分野もレポートした「科学技術大国 中国の野心」特集号はこちらからお買い求めいただけます。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベラルーシ、平和賞受賞者や邦人ら123人釈放 米が

ワールド

アングル:ブラジルのコーヒー農家、気候変動でロブス

ワールド

アングル:ファッション業界に巣食う中国犯罪組織が抗

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中