最新記事

医療

米国の医療関係者向け「死体実習」 会場は高級リゾートホテルの宴会場

2018年1月10日(水)12時00分

ヒルトングループは2012年以降、ニューヨークやシカゴ、サンディエゴなどで少なくとも11件の「死体実習」に会場を提供した。ヒルトンがサイトに掲載するポリシーは、死体を扱うセミナー主催者に、事前に労働安全衛生庁や地元当局の許可取得を義務付けている。

だが、こうした許可を発行している当局は少ない。ロイターは、死体実習が頻繁に行われていた6つの州を調査した。ニューヨークだけが、セミナーに関する規制が州または市町村などの保健当局で設けられていた。死体を扱うセミナーの存在を認識していない当局もあった。

「これまで聞いたことがない。本当のことなのか」と、サンフランシスコの公衆衛生当局の広報担当者レイチェル・ケーガン氏は語った。

本当のことだ。ロイターは2012年以降、死体を使うことを宣伝する会議が少なくとも4件、サンフランシスコのホテルで開かれていることを突き止めた。

飛び散る骨の破片

大学の解剖実習室は、清掃が容易な床面などの衛生設備を備えている。これにより、研究者が人体を使って作業する際に、体液や組織の拡散を最小限に抑えることができる。だが、ホテルの宴会場では、ほとんどがカーペット敷きで、シンクなどの洗浄施設も備えていない。

そのため、ホテルの生物災害を管理するプロトコルは、大学の実習室で義務付けられているものより、はるかに不十分な内容となる。

ニュージャージー州ハドソンのハイアット・リージェンシー・ジャージー・シティの宴会場で10月、医師が人体の胴体部分で実習を行った。そのとき1人の参加者が自分の腕を伸ばし、手などを洗うための石けんかウェットティッシュが会場内にあるか、他の参加者に質問しているのをロイター記者は目撃した。会場にないと告げられると、この医師は腕を前に突き出したまま、そこを出て行った。

また、11月にディズニーのホテルで開かれた実習では、死体が置かれた台の近くに、コーヒーと紅茶が用意されていた。ロイター記者がこれは許されるのかと質問すると、飲み物は部屋から撤去された。

セントラルフロリダ大のアンドリュー・ペイヤー教授(解剖学)は、同大の解剖学教室には、シンク設置が義務付けられていると話す。また、食品や飲み物の持ち込みは禁止されているのが一般的だ。手から口への接触を通じた病原体の拡散リスクを抑えるためだという。

体液や肉片がホテルのカーペットに落ちるのを防ぐため、セミナー主催者は通常、床にビニールを敷く。また実習内容によっては、他の予防策を取ることもあると、ホテルセミナーの主催者は言う。

「膝を切除すると、骨の破片が飛び散る。だから壁もカバーする」。医療機器を販売し、死体実習のサポートも行うバイオスキルズ・ソリューションズのジェームス・マクロイ社長は話す。

ジャージー・シティのハイアットで開催されたセミナーでは、死体が置かれたストレッチャーのすぐ下の部分にだけ、ビニールなどが敷かれていた。その他の床面は、カーペットが露出していた。

「翌日に同じ会場で結婚式のパーティーが開かれて、1歳児がカーペットでハイハイするかもしれない。靴も汚染される。何か1つ間違いが起きるだけ(で予期せぬ事態の発生)だ」と、前出のオスターホルム氏は指摘する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中