最新記事

ロシア

プーチンは第3次世界大戦を目指す

2017年12月26日(火)17時15分
オーエン・マシューズ(モスクワ)

第2次大戦の戦勝記念日にロシア軍幹部と共に赤の広場を歩くプーチン Yuri Kochetkov-REUTERS

<最小の投資で最大の効果を得たシリア内戦への介入――冷戦以来最悪の米ロ対決の構図が全世界に広がる>

諸君、祖国は敵に包囲されているぞ、今こそ生き残りを懸けた最終戦への備えを固めよ!

どうやらロシア大統領ウラジーミル・プーチンは、国民にそう呼び掛けたいらしい。

国営テレビのニュース番組には、シリアで作戦行動中のロシア軍機の雄姿や、ロシアの国境地帯に集結したNATO軍の戦車や兵士の映像があふれている。視聴率トップのニュースショー『60分』では著名アナリストが、シリアで「大勝利」を収めたロシアは「超大国の地位」を取り戻したと豪語していた。

11月下旬にはプーチン自身がげきを飛ばした。「いざという時にわが国の経済部門が軍事生産・奉仕を増やせる能力は、軍事安全保障の最重要な側面の1つだ」と述べ、全ての大企業に戦時の備えを求めた。

この国の過去のプロパガンダの例に漏れず、「ロシアは戦争状態にある」という主張には一定の真実が含まれる。ただし、とても小さな真実だ。

確かにロシア空軍は15年9月からシリアで戦ってきたが、その規模は攻撃機約36機、要員数4751人にすぎない。ウクライナ東部でも、軍服を脱いだロシアの正規兵が現地の分離独立派民兵に交ざって偵察行動をしている程度だ(直近では11月半ば、分離独立派の拠点ルガンスクに国籍不明の戦闘服を着た数百人の部隊が突如として出現し、現地指導者間の内部抗争を未然に防いでいる)。

つまり、現実に展開中の軍事作戦は極めて小規模なものだ。なのにプーチンは、今すぐ総動員体制が必要だと論じている。

なぜか。国内の難局から国民の目をそらし、団結させるには外敵の脅威を持ち出すのが一番だからか。実際、14年にクリミアを一方的に併合して以来、ロシア経済は欧米諸国の経済制裁で疲弊している。だから恒常的な戦争状態という神話で政権の延命を図る必要が生じてきた。

「プーチンには、もはや国民に現金を配る余裕はない。世帯収入は4年連続で減り続けている」と、独立系新聞ノーバヤ・ガゼータのパベル・フェルゲンハウエルは言う。「再選を狙う来年の大統領選では、祖国を外敵の攻撃から守れるのは自分だけだと言い張るだろう」

どこで誰と戦う準備か

だが、好戦的な論調にはまた別の憂慮すべき理由がある。ロシア政府が本気で、戦争間近と信じていることだ。ウクライナ介入以前の13年段階でロシア国防省の年次戦略計画書は、ロシアが23年までに深刻な世界的または地域的紛争に巻き込まれると予測していた。

「彼らは大規模な戦争の可能性ではなく、その始まる時期を考えている」とNATO国防大学の研究員アンドルー・モナハンは言う。「連中は既に戦時体制にある。ずっと前からそうだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スーダンの準軍事組織RSFが休戦表明 国軍は拒否

ワールド

銅相場は堅調、供給動向と米在庫を注視

ビジネス

米当局、コムキャストに罰金150万ドル 23万人超

ビジネス

赤沢経産相、ラピダス「国策として全力で取り組む」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中