最新記事

中国社会

北京から「底辺住民」を追い出す中国の不条理

2017年12月19日(火)16時40分
ジョン・パボン(フルクラム・サステナビリティ・コンサルティング創設者)

magw171219-china02.jpg

強制立ち退きを迫られた出稼ぎ労働者 Jason Lee-REUTERS

上海の出稼ぎ労働者支援組織「憂道基金会」のバッド・プラットは、「上海などで育つ(移住者の)子供はあらゆる意味で上海人だが、同じ機会を与えられず、地元社会から排斥されている」と指摘する。

北京や上海、深圳、広州などで働く出稼ぎ労働者にとって、都会の輝きは色あせ始めている。社会インフラや生活の格差に失望するだけではない。生活費が急騰する一方で雇用が縮小しているのだ。

中国労工通訊によると、出稼ぎ労働者の賃金は、主要都市の平均賃金の半分に届かない場合も多い。中国経済の成長が鈍るにつれて、労働人口の底辺では賃金の上昇も停滞している。

さらに、出稼ぎ労働者の仕事は、より給料の高い製造部門からサービス部門に移行しつつある。サービス部門で働く人は約47%。ただし賃金が安いため、以前と同じくらい働いても、生活に余裕がなくなっている。

こうした状況下で都市から農村に帰る人々も増え始めた。全国規模の調査では出稼ぎ労働者の増加は08年の金融危機以降の最低レベルまで減少している。中央政府は帰還者数を追跡していないが、貴州省などに帰る出稼ぎ労働者は5年前の2倍に上っている。北京市当局の方針はこの流れを加速させるだろう。

海の向こうのアメリカでも似たような動きがある。メキシコなど中南米諸国からの出稼ぎ労働者はサービス業の主要な担い手となっているが、彼らをアメリカの労働市場から締め出そうとする政治的な動きは根強くある。トランプ政権誕生後、そうした動きが一層強まった。

しかし中国と同様、アメリカでも出稼ぎ労働者は目立たない形で社会に貢献している。多くのアメリカ人は不法移民に仕事を奪われると思っているが、不法移民が就くのはアメリカ人が望まない職種だ。彼らがいなければ、アメリカの第1次産業は崩壊しかねない。

中国に話を戻そう。出稼ぎ労働者の排除で短期的には北京の街並みがきれいになるとしても、長い目で見ればこれは現実的な解決策とは言えない。北京の人口は2170万人強で、引き続き増加中だ。この巨大都市から未熟練労働者がごっそりいなくなれば、どうなるか。次の3つの部門を見れば想像がつくだろう。いずれも中国の中間層が享受している便利で快適な生活を支える部門だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

アップル、新たなサイバー脅威を警告 84カ国のユー

ワールド

イスラエル内閣、26年度予算案承認 国防費は紛争前

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 3
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...ジャスティン・ビーバー、ゴルフ場での「問題行為」が物議
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中