最新記事

アメリカ社会

癌の死亡率は下がったが、銃犯罪と薬物乱用がアメリカ国民の生命を脅かしている

2017年11月13日(月)17時00分
松岡由希子

Brian Snyder-REUTERS

米国において、銃犯罪と薬物乱用は、深刻な社会問題であるのみならず、多くの米国人の生命を脅かす要因となっていることが、このほど公表された統計データから明らかとなった。

薬物の過剰摂取と銃暴力の死亡率が上昇

アメリカ疾病管理予防センター(CDC)の下部組織である国立衛生統計センター(NCHS)では、2017年9月17日時点で受理したすべての死亡記録をもとに、心臓病やがんをはじめとする15の死因に加え、薬物の過剰摂取や銃関連の事件・事故なども網羅して死亡率を推計し、「主な死因に関する四半期別暫定統計(2017年第2四半期)」をまとめた。

これによると、2017年第2四半期までの1年間で、主な死因のひとつであるがんによる死亡率は下がったものの、全体の死亡率は上昇。とりわけ、薬物の過剰摂取と銃暴力による死亡率が、2015年以来、上昇していることがわかった。

鎮痛剤を過剰摂取する高齢者、オピオイドを闇取引する若い世代

米国で薬物の過剰摂取により死亡した人の割合は、2015年第1四半期時点で1万人あたり15.1人であったのに対し、2016年第4四半期には19.7人にまで増加。老若男女問わず、多くの人々の健康を脅かす要因となっていることも注視すべきポイントだ。

米紙「ニューヨーク・タイムズ」の取材に応じた米ブランダイス大学のアンドリュー・コロドニー博士によると、米国の薬物依存者は、鎮痛剤を過剰摂取する高齢者と、闇取引でやりとりされているオピオイド(アヘン様合成麻酔薬)を過剰摂取する若い世代との2つのグループに大別されるという。現政権もこの事態を重く見ており、ドナルド・トランプ大統領は、2017年10月26日、オピオイドの乱用が全米に拡大していることを受け、公衆衛生の非常事態を宣言した

銃に関する研究活動への予算は大幅カット

一方、銃に関連する死亡は1993年をピークに減少傾向であったが、直近2年では増加。その死亡率は、2016年第1四半期までの1年間で1万人あたり11.4人だったのに対し、2017年第1四半期までの1年間では12.0人に上昇している。

連邦捜査局(FBI)によると、銃器による殺人も増えており、2015年の9,778人から2016年には11,004人にまで急増した。このような現状があるにもかかわらず、米国では、銃にまつわる科学的研究を推進しにくい環境にあるのが実態だ。アメリカ疾病管理予防センターでは、銃に関する研究活動への予算が、1996年以来、96%も削減され、総予算56億ドル(約6,330億円)のうちの10万ドル(約1,130万円)しか割り当てられていないという。

いわずもがな、国家には、国民の生命を守る義務がある。多くの人命を危機にさらしている銃と薬物の問題に、アメリカ政府がどのように向き合い、対処していくのか、今後の動向を見守りたい。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中