最新記事

公害

NYは毒入りリンゴ? 子ども5400人が鉛中毒に

2017年11月23日(木)13時00分

ウィリアムズバーグ南部の3地区では、2005年から2015年にかけて、最大2400人の子どもからCDC基準を超える濃度の鉛が検出された。そのうち1つの地区では、同じ期間に検査を受けた子どもの21%が高濃度と判定された。最近ではその割合は低下しているが、それでもミシガン州フリントより高いままだ。

リー・アベニューでは、黒い帽子とコートを身に着けた少年たちが、ユダヤ教神学校から出てくる。女性たちは、ユダヤ教で定められた食品を扱う店で買い物し、1900年ごろの建築が多い石造りの建物前で、イディッシュ語で世間話に興じている。

「(鉛中毒検査の)数字を見たときは、心底怖かった」と、ウィリアムズバーグのユダヤ教指導者デビッド・ニーデルマン氏は言う。「古い住宅が集中しており、そこに住む幼い子どもが多いことが、大きな要因だ」と語る。

ウィリアムズバーグのハシド派が多く住む地区では、住民の25%が5歳以下の幼児だ。ニューヨーク市全体ではこの割合は6%にすぎない。

近年では、市のヘルスワーカーがここで集中的に活動している。ニーデルマン氏の宗教団体も取り組みに協力。鉛中毒に関するパンフレットをイディッシュ語で作成し、医療クリニックに検査を強化するよう促したり、住民や大家向けに説明会を開いたりしている。

直近の2015年時点では、ウィリアムズバーグのある地区の子どもの鉛中毒発生率は13%で、市内で最も高かった。その後、数字が低下しているかどうかは、現段階では分かっていない。

店頭にも危険が存在

鉛中毒にかかるリスクが最も高いのは、自分で動きはじめたばかりの乳幼児だが、就学年齢の子どもや大人も安全ではない。

ニューヨークの公立学校による最近の調査では、8割以上の学校で、少なくとも1カ所の水道から米環境保護庁(EPA)の基準値15ppb(1ppbは10億分の1)を超える鉛が検出された。

ニューヨークの公共ラジオがこの結果を地図にまとめ、問題のある蛇口は修繕されるまで閉鎖された。だが、鉛が使われた水道管は、ニューヨークの建物には多数存在する。

市販されている商品も懸念材料だ。鉛問題に取り組むタマラ・ルービン氏は今年、人気玩具のハンドスピナーのなかに、鉛を含むものが数種類あることを確認した。

ニューヨークのあちこちにある人気雑貨店でも、鉛含有商品が売られている。ロイターが子どもや妊娠中の女性が使う商品を雑貨店やオンラインストアで購入し、13点を認証を受けた検査ラボに送ったところ、ヘアピンなど6点から、消費者安全基準を上回る鉛が検出された。

頭上や足下にも

クイーンズでは、市地下鉄7系統の電車がガタガタと音をたてながら頭上の高架線を走って行く。

昨年、開業から1世紀たった地下鉄の構造物から、鉛含有塗料がにぎやかなクイーンズの街に降り注いでいたことが分かったと塗装業団体が発表。ブルックリンにある連邦裁判所の判事は12月に聴聞会を開き、公衆衛生上の緊急事態を宣言すべきか検討する予定だ。

市内の一部地区では、鉛汚染リスクは足下にも存在する。過去の工業排気や自動車の排気ガス、ゴミ焼却や古い建物の塗料などで、土壌が汚染されているからだ。

ブルックリンのグリーンポイント地区にある、家族連れに人気のマッカレン・パーク内の歩道で今夏、ロイターは研究者の協力を得て土壌検査を行った。

コロンビア大学で環境科学を研究する大学院生のフランチスカ・ランデスさんは、数カ月かけて、かつて工業地区だった場所の土壌を検査した。調査した民家裏庭のほとんどで、EPAが子どもの遊び場として適当と定めた安全基準400ppm(1ppmは100万分の1)を上回る数値が少なくとも1ケ所から検出されていた。

未来的な銃のような外見をした蛍光X線分析装置を土に差し込んだランデスさんはすぐに、ジョギングコースのすぐ脇で、安全基準の5倍の鉛が検出されるスポットを発見した。

「ああ、これは高い」とランデスさん。ジョギングコース沿いには、これよりは低いがEPA基準を上回る場所が数カ所あった。

市の鉛対策プログラムを担うナジン氏は、都市部では子どもが庭で遊ぶ機会は限られており、土壌リスクの優先順位は通常高くなかったと説明する。彼女は最近、コロンビア大の研究者と面会し、この問題をさらに検討している。

ニューヨーク市立大ブルックリン校で土壌を研究するジョシュア・チェン教授は、より警戒が必要だと語る。

汚染が確認された地区の住民は、土や泥を家に持ち込まないよう注意し、子どもには頻繁に手洗いをさせ、高濃度の鉛が検出された場所の表土を入れ替えるべきだと同教授は主張する。

「ブルックリンの裏庭で検出された鉛は、過去に鉛精錬作業が行われた場所のレベルに匹敵する。(土壌清浄化連邦プログラムの対象になった)汚染地区と比較できるレベルだ」とチェン教授は指摘する。

2児の母親サラ・ダフォードさんは、自宅裏庭で鉛の濃度テストを行わせてくれたグリーンポイント地区の住民の1人だ。

EPA基準を下回る場所も1ケ所あったが、それ以外は基準の4倍の鉛が検出された。

「恐れていたことは本当だった」と彼女はつぶやき、2歳の子どもに、鉛の血中濃度検査を受けさせることを決めた。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

Joshua Schneyer and M.B. Pell

[ニューヨーク 14日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2017トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、和平に向けた譲歩否定 「ボールは欧州と

ビジネス

FRB、追加利下げ「緊急性なし」 これまでの緩和で

ワールド

ガザ飢きんは解消も、支援停止なら来春に再び危機=国

ワールド

ロシア中銀が0.5%利下げ、政策金利16% プーチ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中