最新記事

中国共産党

習近平が絶対的権力を手にした必然

2017年10月31日(火)16時00分
フォーリン・ポリシー誌中国特派員(匿名)

だが後継指名をしたにもかかわらず、江は権力を自分の手元にとどめておきたいという思いを決して捨てていなかった。05年まで軍の要職にとどまり続け、盟友たちの手を借りて後継者の胡を骨抜きにしようとした。こうして胡の存在感は薄れてしまった。

その胡の弱さが、07年には習の強さとなった。

流れを変えたアラブの春

12年に総書記の座を受け継いだ時点で、習は胡よりも強力で自信に満ちた、カリスマ性のある指導者になると期待されていた。それでも根っからの共産党員ゆえ、党の伝統的なシステムを守り抜くだろうと予想されていた。つまり、17年の党大会では後継者を選び、党の伝統を維持するために次世代の指導部を確立するが、決して独裁者にはならず、集団指導体制の下で一定の制約を受け続けると考えられていた。

当時の共産党内における最も重要なつながりに、イデオロギーはほとんど関係がなかった。重要視されたのは、誰と一緒に出世したか、誰の下で働いたか、誰の面倒を見ているかだった。だから習体制下の政治局には胡や習の、そして江の盟友までもが含まれると予想された。

習政権の最大の難題は、はびこる腐敗だった。腐敗に絡むカネの総額は数十億ドル規模に達していた。

党にとって、腐敗は党に対する国民の信頼と国家の機能を損なうものだった。だが多くの党員は、ほかのみんなが豊かになっているのに、なぜ自分もそうなってはいけないのかと考えた。

ソーシャルメディアを一見すれば、党官僚や地方の役人が国民に仕えず、国民を搾取していることが分かる。

最悪なことに、軍も小さな戦争でも大敗を喫しかねないところまで腐敗していた。基地からヘリコプターが消え、民間会社に売り飛ばされていた。兼業は禁止されているはずなのに、ナイトクラブやコンドーム工場を経営している軍幹部もいる。

国民が官僚の腐敗に不満を募らせるようになったのは、それを話題にできる場があったからでもある。00年代後半には報道もインターネット上の議論もかなりオープンだった。それが自発的なものか当局の意図的な誘導だったかは不明だ。しかし党内の一部には、そうしたオープンさを利用する向きもあった。

一般市民による下級官僚の(オンラインでの)監視に加えて、報道の自由の拡大によって下級官僚の腐敗を排除しつつ、高級官僚の腐敗は放置できると考えられたのだ。中国のブロガーたちは、月収1000ドル程度の地方政府の官僚がロレックスの腕時計をしているのを目ざとく見つけるようになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:軽飛行機で中国軍艦のデータ収集、台湾企業

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中