最新記事

米移民政策

アメリカを捨てるインド移民

2017年10月23日(月)11時00分
スザンヌ・サタライン

16年度に、アメリカで働くためにH-1Bビザを取得したインド人は12万人以上で、他の国の出身者よりもはるかに多い。毎年抽選で発給される8万5000件のH-1Bビザのほとんどは人材派遣会社の申請によるものだが、そうした会社が技術職に雇用する外国人のほとんどはインド人だ。

何年もの間、マイクロソフトやグーグルなどの大手企業は、必要な能力を有するアメリカ人が足りないと主張し、就労ビザの割り当てを増やすよう政府に申し入れてきた。ただし一方には、技術系の学位を持つアメリカ人はたくさんいて、業界のニーズに応えられるはずだという反論もある。

この4月、トランプは「アメリカ・ファースト」政策の一環として就労ビザ制度の見直しを発表。技術レベルが高く、給与水準も高い外国人だけに就労ビザ発給を限定したいと言い、ビザ取得要件を変更する大統領令に署名した。

こうした政策はアメリカ留学を考えるインド人大学生や大学院生を落胆させるだろうと、シアトルの移民弁護士タミナ・ワトソンは言う。「長期のキャリアを望めないなら、彼らがアメリカに来る理由はなくなる」

アメリカ以外の選択肢

外国人労働者の不満を受けて、ブレント・レニソン弁護士は昨年、ポートランド連邦地方裁判所にH-1Bビザ制度の違法性を訴えた。「このままの状態が続けば、アメリカに来ないことを選ぶ人も出てくる。アメリカで教育を受けた留学生もアメリカに残らなくなる」

このシステムは以前から機能不全に陥っていた。政府機関の官僚主義のせいで就労ビザの発給は既に滞っているため、近年では一流大学の卒業生でさえ就労ビザを取得できる保証はないという。

ビザを取得しても、まだ地位の安定は得られない。雇用者が永住権申請のスポンサーになってくれても、認可が下りるまで何年も待たされる。

ワシントンのシンクタンク、ケイトー研究所の移民政策アナリスト、デービッド・ビールによれば、国内外のインド人200万人がグリーンカードの発給を待っている。システムに変更がない場合には処理に10年以上かかる可能性があるという。

それならカナダを選んだほうがいい。トランプが大統領選に勝利した後、カナダ政府は国内で事業を行う企業で働く高度な専門知識を持つ外国人労働者のために、2週間でビザと労働許可証を発行すると発表した。

一方のアメリカでは多くの外国人労働者や技術者が、永住権申請のスポンサーになってくれた企業から離れられずにいる。

オレゴン州のサヘイは、その地獄のような日々をよく知っている。待てば事態が改善されるという望みも、トランプ政権の誕生で消えた。「不公平と言えるかどうかは分からない」と彼は言う。「ルールは政府が決めるもので、人はそれに従わなければならない。インド人はずっと、そうしてきた。ひたすら待ってきた」

インドにいる彼の姪と甥は、今までアメリカへの移住を熱望していたが、心変わりしたらしい。トランプの登場でアメリカのイメージが変わったからだ。

サヘイによれば、姪も甥もこう言ったという。「行かないよ。外国ならどこの国でもいいけど、アメリカはイヤだ」

From Foreign Policy Magazine

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年10月24日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円

ワールド

パレスチナ自治政府、ラファ検問所を運営する用意ある

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ハマス引き渡しの遺体、イスラエル軍が1体は人質でな
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中