最新記事

韓国

iPhone新作発表に韓国メディアが呼ばれなかった理由

2017年9月14日(木)21時53分
前川祐補(本誌記者)

9月12日、カリフォルニア州クパチーノで行われたアップルの新作発表イベント会場に並ぶ新型iPhone Stephen Lam-REUTERS

<世界の主要メディアが招待されたアップルの発表イベントに、韓国メディアの姿はなかった。その理由は、韓国の「汚職撲滅法」にある>

9月12日、アップルがiPhone Xなど新製品の発表イベントを行った。カリフォルニア州クパチーノに建てられた瀟洒な新本社ビルには世界各国の主要メディアが招待され、記者らはティム・クックCEOの新作発表に聞き入っていた。

そんな中、実は韓国メディアがこのイベントに招待されないという憂き目にあっていた。アップルはその理由を明らかにしていないが、招待すればアップルが韓国の法律を犯す恐れがあったため、というのが大勢の見方だ。

韓国では昨年9月、「不正請託および金品等授受の禁止に関する法律」を施行。過剰な接待や賄賂行為などの汚職取締まりを強化したもので、主に財閥、メディア、官僚や政治家の間で横行していた接待文化の断絶を狙った法律だ。これにより、韓国社会では当たり前だった取引先の接待や仕事上の関係者に対する贈答行為が厳しく取り締まられるようになった。

今回のイベントは、アップルが選定した主要メディアを招待したもので、こうしたイベントでは、渡航費や滞在費などを主催者が負担することがある。そのためアップルが「接待」したことになる可能性があり、韓国メディアの招待を躊躇したものと見られている。

ただ実のところ、新製品の発表イベントに招待することまで禁じているかどうかは定かではない。いわばグレーゾーンだが、アップルにしてみれば危うきには近寄らずという判断だったのかもしれない。

【参考記事】 iPhoneX(テン)購入を戸惑わせる4つの欠点

「密告者」への褒賞金制度も

この法律は施行前からその負の影響が指摘されていた。当初は主に経済的影響が懸念されており、接待が減ることで飲食店などの外食産業やゴルフ場経営が影響を受けると見られていた。韓国経済研究院が施行前の16年6月に発表した報告書によれば、「損害額」は約12兆ウォン(約1兆2000億円)にも上ると試算されている。

経済的打撃があるとはいえ、国民世論は概ねこの法律を肯定的にみている。6月に世論調査会社の韓国ギャラップが実施した調査によると、回答者の7割近くがこの法律を「良いこと」だと回答している。

実際、この法律の施行後間もなく、権力者に対する「金品の授受」行為で逮捕されたケースがあった。暴力行為等の業務妨害で検挙された医師が昨年10月、事件を捜査していた警察官の机に100万ウォン(約10万円)入りの封筒を置き、暗に「免罪」を求めたケース。この医師は結局有罪となり、300万ウォン(約30万円)の罰金を命ぜられた。

こうした悪しき習慣がまかり通っていた過去と決別するため、この法律は必要だったのかもしれない。ただその一方で、法の解釈をめぐり混乱や困惑が広まっているのも事実だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

東京外為市場・午前=ドル146円台へ上昇、米軍事介

ワールド

イスラム諸国、イスラエル・イラン緊張緩和目指す連絡

ワールド

アングル:イスラエルと米国によるイラン核施設への攻

ワールド

米副大統領、LAでデモ対応に動員した部隊と面会 知
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 2
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 3
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 9
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 9
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中