最新記事

中国政治

軍参謀ら摘発から読み解く習近平の狙い----新チャイナ・セブン予測(2)

2017年9月4日(月)08時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国人民解放軍建軍90周年、内モンゴル自治区でパレード(7月30日) China Daily/REUTERS

香港メディアによれば中国の複数の中央軍事委員会委員らが軍紀律検査委員会の取り調べを受けているとのこと。実はここにこそ習近平の一極集権の真の原因と目的が隠されている。新チャイナ・セブンの鍵も見えてくる。

複数の現役中央軍事委員会委員を取り調べ

9月1日、香港の「星島日報」は中央軍事委員会委員の房峰輝と張陽、および元委員の杜恒岩ら3名が、「重大な紀律違反」により中央軍事委員会紀律検査委員会の取り調べを受けていると報じた。習近平自身が取り調べを命令したとのこと。「取り調べる」対象は「腐敗」。やがて逮捕され裁判にかけられる。9月3日、このコラムの原稿を書いている時点では、まだ中国政府の正式な発表はないが、房峰輝が突然解任されていることから、ほぼ正しい報道と見ていいだろう。

房峰輝は、習近平政権が誕生する第18回党大会が始まる直前に中国人民解放軍総参謀長に抜擢され、2015年12月31日に行われた軍事大改革以降は中央軍事委員会聯合参謀部参謀長に就任していた。参謀長として最後に姿を見せたのは今年8月21日で、8月26日には李作成(元陸軍司令)が、突然、中央軍事委員会聯合参謀部参謀長としてタジキスタンの首都ドゥシャンベに姿を現した。つまり、参謀長は房峰輝から李作成に代わったということを意味しており、人々はこれにより初めて房峰輝が参謀長を解任されたことを知った。

実に異常な形での解任と任命である。

ただ、まだ第19回党大会が開催されていないので、現時点では現役の中央軍事委員会委員だ。

一方、張陽は、第18回党大会直前に中国人民解放軍総政治部主任になり、軍事大改革後は中央軍事委員会政治工作部主任に着任している。張陽が最後に姿を見せたのは今年5月22日で、訪中したアンゴラ軍の将軍と会見した時だった。

もう一人の取り調べを受けている杜恒岩は、すでに退職している元中央軍事委員会委員。

軍事委員会委員でかつ副主席でもあった者が退職後に取り調べを受けた前例はある。除才厚と郭伯雄だ。二人とも桁違いの腐敗問題で逮捕され、除才厚は牢獄で病死し、郭伯雄は終身刑を受けて、いま牢獄にいる。

しかし、現役の中央軍事委員会委員が取り調べを受けるのは、あまりない。

その背景には何があるのか?

郭伯雄や除才厚の「流毒」

房峰輝はかつて蘭州軍区第21集団軍の副軍長や軍長を務めていたことがあるが、その時の蘭州軍区司令員だった郭伯雄に可愛がられていた過去がある。

江沢民は天安門事件のあった1989年から、胡錦濤政権(2002年~2012年)に2年間も喰い込んで2004年までの15年間にわたって中央軍事委員会主席を務め、腐敗の限りを尽くした。引退後は自分の代理として徐才厚と郭伯雄を中央軍事委員会副主席の座に送り込み、中国全土にわたる軍の全ての人事権を握らせていた。腐敗によって巨大なネットワークを形成していたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中