最新記事

韓国

韓国はいつ誕生した? 建国年をめぐる左右バトルの行方

2017年8月24日(木)17時21分
前川祐補(本誌記者)

1919年に上海で設立された韓国臨時政府跡 Sanga Park/Shutterstock.com

<1919年か、1948年か? 大統領の文在寅自ら、国際的に認知された年と異なる建国年を主張し、物議を醸している>

就任以降、何かと左右の対立を生む言動が相次ぐ文在寅(ムン・ジェイン)大統領。本来なら国民が一致団結するはずの独立記念日にも、物議を醸す発言が飛び出した。

文は8月15日の式典で、韓国の建国年が1919年だと主張。2年後に建国100周年を迎えるとして周囲を驚かせた。

韓国が正式に独立し、李承晩(イ・スンマン)が初代大統領に就任したのは1948年。以降、同年が建国年であることは国際的にも認知された事実で、文も李から数えて19代目の大統領として就任した。

それでも文が「1919年建国」を主張するのは、彼の支持母体である抗日独立運動関係者やリベラル派の後押しがある。彼らは、日本からの独立を求める朝鮮半島の市民が中国の上海に臨時政府を設立した1919年こそが建国年だと主張する。

だが、保守派はこうした設定に疑問を呈し、文の発言を牽強付会とまで批判している。自由韓国党の柳錫春(リュウ・ソクチュン)革新委員長は、領土も主権もなかった1919年を建国年とするのは拡大解釈だと批判。「人に例えれば、1919年に妊娠し、1948年に誕生したということだ」と皮肉っている。

国家の「正統性」をめぐる対立

第二次大戦から70年以上を経た今になって建国年をめぐる議論が巻き起こっているのは、来年にも実施が見込まれる憲法改正と関係がある。文はその際に、1919年を正式な建国年として制定すると見られているからだ。

建国年をめぐっては、独立運動について書かれた現憲法の前文をめぐる解釈や、韓国内のいわゆる親日派と反日派の争いなど、多くの問題が複雑に絡み合っている。論争の核心はどこにあるのか――。それは、韓国という国家の「正統性」をめぐる左右対立だと、新潟県立大学の浅羽祐樹教授は言う。

「1919年建国を主張する左派勢力にとっては、1948年は建国どころか分断を招いた『失敗の年』という認識だ」。この年、韓国が8月に、そして北朝鮮が9月にそれぞれ独立を宣言。今に続く南北分断の分かれ目になった。

北との統一を心願にする左派勢力にとって、現在の韓国は北半分を欠く「不完全な国家」だ。そのため、臨時政府を設立した1919年を建国年とすることで、保守政権が長らく支配してきた「韓国史」は正統ではないと主張し続けている。

一方、1948年の建国を主張する右派勢力にとっては、韓国はあくまで「正統で完結した国家」との認識だ。共産主義を掲げ、ソ連の支援を受けた北朝鮮と戦火を交えながらも、経済は成熟し世界に名をとどろかせる企業を輩出するまでに成功。――北朝鮮より優越した国家になった韓国の「サクセスストーリー」を信じて疑わない保守勢力にとって、「1919年建国」は韓国史の前提を崩すことになりかねないものだと、浅羽は指摘する。

【参考記事】韓国の次期「左派大統領」が進む道

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中