最新記事

ロシア

米ロに新たな火種、トランプを攻めるプーチン「寝技」外交

2017年8月16日(水)16時35分
ドミトリ・トレーニン(カーネギー国際平和財団モスクワセンター所長)

ロシア経済が低迷するなか慎重な対応を示したプーチン大統領 KAY NIETFELD-POOL-REUTERS

<米大使館員755人退去要請の裏にあるロシアの本音と、米ロ対立の新たな火種>

ロシアが米ロ関係の改善につながる措置を取ってくれることを期待している──。米議会が対ロ制裁強化法案を可決したのを受け、レックス・ティラーソン米国務長官が、そんな声明を発表したのは7月29日。もちろんロシアがそんな呼び掛けに応じるはずがない。

同法案可決後の28日、ロシア政府はモスクワ近郊にある米大使館の保養施設など2カ所の使用禁止を発表。さらにモスクワの約1200人の米大使館職員のうち755人の国外退去を要請した。期限は9月1日だ。

【参考記事】ロシア、米大使館員など755人を追放。対ロ制裁強化案の報復で

なかなか衝撃的な措置だが、決して衝動的ではない。むしろロシアのウラジーミル・プーチン大統領による、計算された怒りの表明と言える。

例えばプーチンは、対抗措置のターゲットは米企業ではなく、米政府であることを明確にした。同法が成立した8月2日には、当面はこれ以上の対抗措置を取らない意向も示した。アメリカの対ロ制裁が実際にどのような形になるか様子を見ようというわけだ。

プーチンは現在のアメリカに、3つの大きな対立を見ている。まず、ドナルド・トランプ米大統領と批判派の対立。これが政権を麻痺させている。第2の対立は、ますます豊かになる富裕層と、ここ数十年生活が上向かない一般市民の対立だ。

第3の対立は、アメリカは今後も世界の警察官であるべきだと考える人々と、よその国のトラブルなんて放っておいて、昔のような孤立主義に戻るべきだと考える人々の対立。つまり外交政策における対立で、3つの中で最も解消に時間がかかるかもしれない。これに対して第1の対立は、弾劾か次期大統領選で(つまり2~4年後には)解消するかもしれない。

いずれにしろ3つの対立は全て、アメリカがどういう国になりたいかというアメリカ自身の問題であり、それがはっきりするまで、個別的な制裁に過剰反応するべきではないとプーチンは考えたようだ。

16年の米大統領選とその後の騒動で、アメリカの政治エリート層は、アメリカの政治システムに自信を失い始めた。彼らはアメリカの民主主義が外部からの干渉に弱いこと、そして大統領と彼に忠誠を誓うチームが外国と共謀した可能性を否定できずに、困惑している。

RT(旧ロシア・トゥデー)やスプートニクはロシア政府の御用メディアだが、アメリカではそのことはほとんど知られていない。このためロシアのプロパガンダが、巧みにアメリカの世論に浸透して、有権者の投票行動に影響を与えている可能性に、エリートたちは不安を覚えている。

【参考記事】トランプとの会談前、ロシアはジョージア領土を奪っていた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心呼ばない訳
  • 4
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 7
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中