最新記事

朝鮮半島

ゲームの勝者は金正恩か? ICBMで一変した北東アジア情勢

2017年8月24日(木)11時30分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

北朝鮮のICBM「火星(ファソン)14号」 KCNA-REUTERS

<北朝鮮の存亡を賭けた独裁者の狙いは平和条約調印と南北統一。一枚上手の金正恩に日本のミサイル防衛も憲法も歯が立たない>

北朝鮮のICBM(大陸間弾道ミサイル)開発が急テンポで進んでいる。北朝鮮といえば、半ば鎖国状態のなかで科学者が銃殺に怯えつつ必死で研究を進める国を想像してしまう。だが実際には科学者や技術者はロシアや中国などに留学し、先進技術を自由に移入してきた。

その結果できる「北朝鮮製ICBM」はこれまでのゲームを一変させ、北東アジアの政治地図を塗り替えるだろう。冷戦最後の前線、南北対立は溶融し、北東アジアは諸勢力が相克・提携するバランス外交の場になる。

北朝鮮が核開発を進めるのは、アメリカに政権をつぶされるのを防ぐため。リビアのカダフィ大佐惨殺の背後にはアメリカがいた、同じ目には遭いたくない――金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長はそう思い、ICBMでアメリカの手を封じた上で話し合いを強要。休戦中の朝鮮戦争について平和条約を調印し、北朝鮮国家と自分の安泰を図りたいのだ。

アメリカは北の核開発を止めようと、直接交渉や6カ国協議、国連や独自の制裁、中国を使っての圧力を試みたが、北朝鮮は乗り越えてきた。今回ICBMを見せつけたことで、北朝鮮問題は極東の地域問題からアメリカ自身の問題となった。ICBMが来襲しかねない状況で、アメリカは北朝鮮の処理をいつまでも中国に丸投げできない。

【参考記事】トランプ ─ 北朝鮮時代に必読、5分でわかる国際関係論

金正恩の「除去」は至難の業

だが、アメリカは武力を使えまい。影武者を何人も使い、常に居場所を変える金の「除去」は至難の業。核開発施設も地下にあり、アメリカも全て把握できない。1回の攻撃で北を無力化しない限り、北朝鮮は日韓の米軍基地に報復を加えるだろう。

もはや北朝鮮問題の主導権を握るのは北朝鮮自身だ。各国はそれに気付かないかのように、ポーカーゲームを続けている。中国は自分の足元でアメリカに勝手なまねをさせたくないが、北朝鮮の処理を丸投げされても困る。北との関係はそれほど緊密なわけではないが、何もできないと言えずにやるふりをする。

アメリカは米韓合同軍事演習を中止して平和条約締結交渉を始めれば危機は回避できるのに、なぜかそう言わない。米マスコミは、頭のおかしい北の指導者が急にICBMを向けてきたという調子で報道し、トランプの対応を批判する一方だ。

ロシアはこれまで北の核開発を助け、石油輸出も増していることに頰かむり。国連で制裁が議題になるたび、自分の協力を北やアメリカに高く売りつける。日本はといえば、ICBMが上空を通過するはずの地域に高空には届かないパトリオットミサイルを慌てて移動したり、集団的自衛権を発動してICBMを撃墜するのは憲法違反かどうか「神学論争」を繰り広げたりしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領府長官が辞任、和平交渉を主導 汚職

ビジネス

米株式ファンド、6週ぶり売り越し

ビジネス

独インフレ率、11月は前年比2.6%上昇 2月以来

ワールド

外為・株式先物などの取引が再開、CMEで11時間超
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 10
    筋肉の「強さ」は分解から始まる...自重トレーニング…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中