最新記事

イラク

「クルド人国家」に立ちはだかる無数の壁

2017年7月11日(火)18時00分
マイケル・ルービン (アメリカン・エンタープライズ研究所レジデント研究員)

イラクからの独立を目指すクルド自治政府のマンスール・バルザニ議長 Maja Hitij-REUTERS

<イラクのモスルをISISから奪還した今こそ、イラク北部のクルド自治区の独立のチャンス。だが今のままでは新たな殺し合いが起こるかもしれない。クルド人のせいではなく、自治政府のバルザニ議長が指導者にふさわしくないからだ>

イラクのクルド自治政府で事実上の大統領を務めるマンスール・バルザニ議長は、6月28日付けの米紙ワシントン・ポストに、「イラクのクルド人が独立について選択する時が来た」という見出しの論説を寄稿した。

その中でバルザニは、「イラクのクルド人が自治権を行使することは誰の脅威にもならないし、不安定な地域の安定化につながる」としたうえで、次のように結んだ。


イラクにクルド人を押し込む1世紀にわたるやり方は、クルド人にとってもイラク人にとっても得策でなかったと認める時だ。アメリカと国際社会はクルド人の民主的な決定を尊重すべきだ。長い目で見ればそのほうがイラクとクルド自治区の双方にとって良い結果をもたらす。

クルド人には独立する権利があるか。答えはイエスだ。

チェコスロバキアとは違う

だが、クルド人の独立が地域を安定化させるというバルザニの見解は正しいだろうか。答えは絶対にノーだ。ただしその原因の大半はバルザニ自身で、クルド人が問題なのではない。

クルド人の独立を正当化するためクルド自治政府関係者はよく、1993年のチェコとスロバキアの連邦制解消が友好的だったことを引き合いに出す。

だが、紛争になった例も多い。スーダンと南スーダン、エチオピアとエリトリア、セルビアとコソボ、インドネシアと東ティモールなど、ゲリラ勢力の台頭や軍事衝突を伴った分離独立も多数ある。そうした紛争で、分離独立派が勝利して統治に成功した例は1つもない。恐らくそうしたケースの方が、クルド人の状況に近いだろう。

筆者は『Kurdistan Rising(クルド蜂起)』の中で独立後のクルド人の成功を左右するすべての問題とその取り組み方について書いた。

以下はそのほんの一例だ。

■水の共有に関する協定

バルザニは、クルド人独立後のイラク政府とクルド自治区はうまく共存の道を見出せると言う。だが70年以上前のものもある水資源の共同利用に関する協定の修正は大変だろう。チグリス川とユーフラテス川の水をめぐっては、トルコとシリアも含めた周辺諸国の間で小競り合いが絶えず、水戦争が勃発しかけたこともある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本の経済成長率予測を上げ、段階的な日銀利上げ見込

ビジネス

今年のユーロ圏成長率予想、1.2%に上方修正 財政

ビジネス

IMF、25年の英成長見通し上方修正、インフレ予測

ビジネス

IMF、25年の世界経済見通し上方修正 米中摩擦再
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 8
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 9
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中